中小企業の事業継承を考える

「2代目、3代目探しが難航し、事業を継承できない」。高齢化する中小企業経営者にとって事業継承は大きな問題であり、日本の産業の衰退につながります。既存の株式会社の事業継承には、どのような選択肢があり何に気をつけながら検討すればいいのか。企業経営に詳しい寿FPコンサルティング株式会社の高橋成壽さんに伺いました。




まず、事業継承を検討するのはどんなケースでしょうか?

・既存経営者の死亡など、経営者不在により強制的に継承しなければならないケース
・社長が高齢になった、バーンアウトした、経営者が違うことをやりたくなった、など経営者が引き継がせたいケース
・事業拡大や業態変更で社長が事業をコントロールできなくなったなど、事業継続のために経営者を変更したほうがいいケース

などがあります。
以前は、製造業など第二次産業に携わる企業が多かったので、借り入れや設備、雇用の数が比較的大きく、事業継承は大変な課題でした。


引き継がせるほうも引き継ぐほうも、何に気をつければいいのでしょうか? 

会社がちゃんと回っているということが前提になります。まずは業界の未来を考慮し、事業を続ける価値があるのかを考えましょう。続けるにしても自分を含め誰が経営者であることがいいのか、他の企業の傘下に入った方がいいのかを考えてください。またこの先数年、数十年できたとしても、その先にまた引き継ぎは生じます。それをいつやるのか、も考えるのも重要です。
PLやキャッシュフローの内容、借り入れの状況を確認して、借り入れが多い場合は傷が浅いうちに、手当てをする計画を立ててください。

また株式会社の場合、株の整理は重要です。すでに疎遠になった方が名義株の株主になったままであったり、多くの人が少しずつ株を持っている場合もよくありますから、まず株主構成を再確認し、現在付き合いのない人の分は移動させるなど対処をしておいてください。
株式移動には、贈与と譲渡(主に買取)の2パターンがありますが、贈与税の非課税限度額の範囲内で移動するのに、長い期間を要する可能性もありますので、早めに株の整理に取りかかることをおすすめします。


株式会社をどのようにすればいいか。

事業や業界の未来が明るい場合、親族内承継か親族外承継、それ以外は、他の会社に売却、売却できない場合は清算があります。
継承以外の判断も悪くありません。業績がいいうちに売却、清算の判断をするほうが賢明なこともあります。

「売却」は、事業に見込みがあり、規模の拡大でシナジーが期待できる場合、負債をかかえていても売却できます。いわゆるM&Aですね。
また銀行からの借り入れがある場合には、売却する際に連帯保証人の名義変更を行ってください。通常、金融機関から株式会社が借り入れがある場合、社長が連帯保証人になります。株式会社は有限責任ですが、銀行から借り入れる際に連帯保証人に個人の名前をサインした途端、無限責任になってしまうため、それが嫌で社長にならない人もいます。

「清算(廃業)」は、原則、借金を無くすことができないと清算できません。ただし赤字でも社長の個人資産や会社の不動産屋権利などの売却で相殺できる場合は可能です。負債がある場合、債権者がだまっていませんし、負債を払わずに株式会社を清算してしまうと、裁判になってしまいます。
また清算の場合には、従業員には退職を強いることになるため、退職規程の定めに従い退職金の支払いが発生します。

しばらくしてまた株式会社を利用したい場合は、休眠会社にしておく、という選択肢もあります。社歴が残るメリットもあります。

また、倒産させたいという要望もありますが、銀行からの借り入れが返せず倒産する場合、メリットはありません。通常、会社が銀行などの金融機関から借り入れをしている場合、社長が連帯保証になっているので、個人も自己破産になり、社会的信用を喪失します。
また、会社を倒産させる前に会社の資産を個人口座をうつすといった行為をすると詐害行為で訴えられます。


売却、精算それぞれのメリットデメリットを教えてください。


清算のメリットは、第一に、社長がいろいろなところから解放されることですね。
儲かってないけど、注文もお客さんも従業員もいる、やめる必要もない、という理由でずっと続けているうちに身体のほうがままならなくなった、というケースも多いんです。できることなら廃業したいと考えている中小企業の社長は多いと思いますよ。

デメリットは、経営者の生きがいがなくなる、またお客さんがサービスの提供元を失い、社員は職を失う、また優れたサービスを提供していた場合、社会的損失となる、ということです。

売却のメリットは、会社の技術やノウハウがそのまま残り、一般的にはしばらく雇用も残りますので従業員が職を失うこともありません。また、お客様、仕入れ先、卸先にも迷惑がかからないので社会的にもいい影響です。これは、どのような状況の会社にもいえる同様のメリットです。

デメリットは基本的には少なく、挙げるとすると、売却額が思い通りに行かない可能性があることです。また売却前の経営者がカリスマ社長だった場合、取引先が離れて失注したり、経営者を慕っていた従業員が辞めるなどのケースは存在します。


どのように選択肢を選ぶべきでしょうか。またそれぞれの流れを教えてください。

基本的にはすべて「会社をどうしたいか」によります。 残したいのか、残したくないのか、残したいのは会社か事業か、業界と事業の将来性を考慮して判断してください。

企業を手放す場合は、やはり「売却」がよりよい選択です。
売却相手を見つけるためには、まず取引先、証券会社も含めた取引銀行などの金融機関、M&A会社への相談してみてください。
様々な会社とのマッチングを検討してくれるM&A会社の報酬は売却価格に対する手数料ですので、会社の規模が小さいとM&A会社の利益につながらないため、仕事して受けてくれない場合もあります。 

売却の流れは、まず財務・リーガル系・労務・経営環境などを含めた査定をされます。その後、買取評価価格が提示されるので、価格調整を経て合意となります。中小企業のM&A実績が多い企業もありますので、問い合わせてみるといいと思います。

「精算」の場合は、まず機材・在庫・設備を売り払い、次に不動産を精算して換金し、出資者に分配するという流れです。


事業継承、売却、精算をうまくやるコツはありますか?

まず株が分散しすぎていると、特別決議である事業譲渡、解散の決議ができないので、どの場合でも株の整理は早めに行うことをおすすめします。

「売却」の場合、業績がいい時の方が高値で売れますので、出来るならば少し業績を上げて売るほうがいいしょう。またその業界や技術・特許を査定する目がある買い手に買っていただく方がいいですね。
大手のM&Aの場合、一般的に(純資産+経常3期分+プレミアムまたはマイナス)と言われていますので、3期がんばることで売値が変わるかもしれません。


会社を継ぐのは親族であることが多い印象があるのですが、どうでしょうか? 

中小企業庁による中小企業の承継携帯の調査では、小規模事業者の場合64.9パーセント、中規模企業の場合42.4パーセントが親族内継承です。

中規模企業が親族を後継者とする場合、自社株式等の引き継ぎが容易、金融機関との関係を維持しやすい、という理由があり、また親族以外を後継者とする場合、役員・従業員から理解がされやすい、士気向上が期待できる、といった理由が挙げられています。
どちらにしてもスムーズな事業継承を行うためには、社長は現役のうちに、誰に継がせるかは決めたほうがいいです。

現社長が死亡した場合、親族には法定相続分で自動的に株が共有相続されてしまいます。するとその後の会社運営や株の移動がまた大変ですので、そういった面倒を避けるためにも、遺言に株の分配を記しておくなどの対処をしておいたほうがいいです。

株の相続税をどう考えるかにいては、税理士さんに評価額を相談してみてください。なお、自社株式の算定は、顧問報酬のほかに別途自社株評価の報酬を支払って下さい。顧問料の中だけで税理士が何でもやってくれるという誤解はそろそろ解かないといけません。黒字決算でも債務超過の場合もあります。ちなみに非上場で債務超過の場合、株の評価額は0で、移動は容易です。上場株式の場合は、いわゆる上場株式の市場価格で取引となりますが、債務超過が続くと上場廃止になります。


親族継承の場合、特に気をつけるべきことはありますか?


事業継承する場合も、精算する場合も同様に、各債務に対し、連帯保証がついているか、また誰が連帯保証人なのかを確認してください。
通常、経営者個人が連帯保証人になっているため、その連帯保証も法定相続人に相続されます。また経営者の配偶者が連帯保証人になっている可能性もありますし、担保が会社と自宅になっている場合もありますので、状況を確認してください。

連帯保証人としての債務は、事業主でありかつ債務の連帯保証人であった父親が亡くなると、法定相続人に自動的に引き継がれます。その際、対策として法定相続人全員が相続放棄を家庭裁判所に申し出る事で、連帯保証人としての地位の引き継ぎをせずにすむ相続放棄という方法もあります。しかし、配偶者や子供全員が相続放棄をすると、他の親族が法定相続人になります。たとえば、経営者の兄弟が亡くなっている場合だと、その子供である甥や姪が保証人の地位を引き継ぐことになる可能性があります。経営者の親族は、相続に当たっては細心の注意が必要です。亡くなった経営者が知り合いの法人の連帯保証人になっているケースもよく聞きますので、本当に注意が必要です。

法定相続人は相続を一切放棄する「相続放棄」という選択を取ることもできますが、相続放棄をするということは、「相続人であることを放棄する」という意味で、全財産に関して相続を放棄することです。

ただし、故人の預貯金の解約や方見の処分など遺産を勝手に処分するとその時点で相続を単純承認したとみなされる可能性があるため、相続放棄が実務上できなくなることも多いです。
相続放棄を選択する可能性がある場合は、被相続人の遺産には手をつけないことが無難です。

もちろんお金を借り変えて、保証人の書き換えをすることもできます。
政策金融公庫や信用金庫には無保証で借り入れ可能な商品がありますので、探してみてください。


脱サラして経営者になり事業継承する場合や、子供が経営者の場合に身内でM&Aをするという可能性もありますよね?

親の経営する会社の株を子供が贈与や買取で承継することもできますし、子供が持っている会社で買うM&A方式での引き継ぎも可能ですシナジーが見込め、株が購入できるのであれば、子供の会社が親会社となり、親の会社の株を買い、親がそのまま子会社の社長を務めて、100パーセント子会社か、持ち株会社化し、運営することもスムーズな事業継承になるかもしれません。ただ、その場合は、後々経営者をどうするかという問題が発生します。
中小企業投資育成会社に、中小企業が発行する新株を引き受けてもらい、自社株の評価を引き下げる方法もありますので、活用もできます。

業績がいい場合は、銀行からお金を借りて、親の会社の株を買い、利益を出して配当金を原資に銀行に戻していくというパターンもあります。
身内による事業承継の方が銀行もお金を貸しやすいでしょう。

ただし上場企業の場合、連帯保証人が不要になります。上場後借換をすれば、個人の連帯保証を外すことができます。また利益が少なくても上場できる市場や、赤字であっても上場できる市場もありますので、事業承継の切り札として株式上場(IPO)を視野に入れておきべきです。

経営者になると収入や生活において、サラリーマンのような安定はなくなりますので、脱サラして事業継承する場合は、業界の展望や事業の継続性、また経営者としての能力があるかを考慮することが重要です。


株主関係、登記関係の法的手続きや、税の問題は、どの専門家に相談すればいいでしょうか。

登記関連は司法書士、売買や事業譲渡の書面は弁護士、株や税の問題は税理士さんとそれぞれの専門家に相談されるといいです。

会社の評価については、財務評価自体はそれほど難しくありません。税理士さんにお願いできます。不動産は、時価で評価するため、取得価額を時価評価します。難しいのは、コンプライアンスや労務リスク、不動産であれば土壌汚染などのリスク、経営者変更に伴う信用不安などが数字ではわからない点への評価です。正解が無いというのが非常に理解しづらいところです。

買い取りの場合、評価が本当に正しいかは誰にも証明ができないので、信頼できる人に依頼することをお勧めします。売却の場合は、売り手も評価の必要はありますが、買い手が全力で評価してくると思いますので、売値と買値の差額に対し、いかに納得できるかがポイントです。

創業社長は一番苦労が多いです。せっかく立ち上げて、うまくいっている事業が後継者問題だけで立ち消えるのは産業界、社会にとっても損失になりますので、先代が現役の間にしっかり意思決定しておくことが重要です。


寿FPコンサルティング株式会社 代表取締役 高橋成壽 
企業経営のわかるファイナンシャル・プランナーとして、主に神奈川県内の中小企業経営者から社外アドバイザーとして頼りにされている。「金融機関や顧問士業が気を使って言えないことに経営者自身に気づいてもらうこと」を大事にしている。自身の実家も創業から100年以上続く部品製造業であり、生き残りをかけた経済環境下での社外アドバイザーの必要性を誰よりも強く認識している。近著に「ダンナの遺産を子どもに相続させないで」(廣済堂出版)がある。保有資格:日本FP協会CFP®、M&Aシニアエキスパート。

board事例インタビュー

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