中小企業経営者が押さえておくべき資金調達の方法と考え方(後編)〜リスクとどう向き合うか

ベンチャー企業経営者にとって、資金調達の方法、タイミングは非常に重要な課題です。スタートアップ界隈では、VCからの調達がメディアを騒がせていますが、そもそもスタートアップやベンチャー企業の資金調達の選択肢には何があるのか。

それぞれのメリット・デメリットを、検討するとともに、選択肢にまつわる噂などについて、Seven Rich会計事務所・(株)Seven Rich Accounting代表取締役社長・所長 服部さん(公認会計士・税理士・行政書士)とセッションを行いました。

今回は後編です。(前編を読む



*発言者は、H:服部さん、T:田向

銀行からの借入とそのリスク

(T)やはり、お金を借りるというのは、怖い。どれくらいの金額を融資してもらえばいいかの判断も難しいですし、額が大きいほど資金的な余裕はできるのですが、やっぱり怖い、と感じてしまいます。

(H)はい。これはよく相談される内容ですが、そういったときには、“怖い”という感情を冷静に分析してください、とお話ししています。

何かをするときには、基本的にリターンとともに、リスクがありますよね。では「銀行から借りるときのリスクは?」と聞くと「全部返済しなければならない」という答えが返ってくるのですが、結局それは「借入金を何に使うのか」という問いにつながります。

たとえば、ずっと借入金を持っているだけならば、リスクは利子分しかない。では、「その利子分のみの返済に “怖い”という感情を持ち出すことがあるのか」ということを考えてください、とお話しします。本当は借りたお金を事業に活かせれば、利子分くらいは利益を出せるかもしれない。単純な話ですが、たとえば外注費を早く払うから値引きして、ということだけでも利子分を回収できるかもしれない。それよりは「そのお金がないことで、チャレンジが出来ないこと」のほうが怖くないですか?と話します。すると、「そうですね」となる。

資金調達のときには“怖い”という感情がよく話されるのですが、この“怖い”の正体を冷静に感覚と事実を分けて考える。さらにそこに数字を当てはめていくと、明確にその調達が本当に怖いのか、そうでもないのかがわかります。経営者の方々には、お金があることで利益をあげられること、事業をひろげられることも含めて検討してもらいたいです。
VCからの調達のゴールは、ほぼ2択しかないので、いくらでIPOするのか、いくらでBUY OUTするのか、そのゴールからどれくらいの金額が必要かを、他社事例を見て算出してください。それができないのであれば、やめた方がいいです。
緊急に迫ってではなく、経験のための融資をうける場合は、あったらいいな、という額、返済の許容額で決めればいいと思います。


助成金・補助金について

(H)助成金・補助金については、獲得のために一生懸命動いている人たちがいます。でもその申請に必要以上に時間をとられていたら、それは事業にとってリスクですよね。

(T)そうなんです。助成金や補助金は、申請が煩雑なイメージがあって費用対効果的にあまりよくないのではないか、と感じるのですが、積極的に活用していくべきでしょうか。

(H) もともと助成金・補助金の対象事業に当てはまって、書面作成にそんなに時間がかからないのであれば、活用できることは活用したほうがいいです。でも、助成金・補助金をもらうために新たに事業をやるのでは、費用対効果が悪いと考えます。
資金調達全般に言えることですが、やはり自分のゴールが何かということを考えずに調達はしないでいただきたいですね。

(T)そうですね。ゴールが見えないと費用対効果もわからないですしね。


VCとエンジェル投資家の違い


(T)VCとエンジェル投資家の違いって何でしょうか。

(H) VCは企業で事業として投資活動をしており、エンジェル投資家は個人で投資を行っています。
エンジェル投資家は、その人個人の見解で投資目的を設定するので、人により目的や関わり方が違います。ハンズオンでプレッシャーをかけ続ける人もいるし、事業にノータッチの人もいます。VC投資の場合は、基本的にゴールはIPOかBUY OUTで、VCが運営するファンドにお金をいれている人たちからもそのゴールやリターンを求められます。
経営者にとっては、どちらからも投資をうけたことで、知名度が上がるというニュースバリューを出せますし、ブランディングにもなります。VCは銀行と違って自社以外の投資先が見えるので、事業シナジーを出せるようアプローチすることも可能です。
どちらも選ぶ際には、自分の事業にどれだけ力になってくれるのか、という視点で選んでください。


資金調達は誰に相談すべきか

(T)資金調達はあまり馴染みがなく、どういう方法が自分たちにあっているか、どのタイミングでどの程度調達すべきか、などの判断が難しいです。どのような方に相談するのが良いのでしょうか。また、相手を選ぶ際、どういう点に注意したらよいでしょうか

(H)まずは会計士、税理士、弁護士など外部の専門家に相談するといいですね。彼らは様々なケースを見ているのでその会社に合った資金調達について、適切なアドバイスができると思います。
次に、経営者仲間から聞く、ということも重要です。ただ、みんな自分の調達が最高だと言うと思いますので(笑)、いろんな人から聞いてください。その2つをバランスよく組み合わせられるといいですね。

調達方法を検討するときには、選択肢をなるべく網羅的に洗い出すことが重要です。VCを検討するのであれば、投資先を調べ、その投資先がどのようなステップを踏んだかまで必ず確認したほうがいいですし、VC同士や事業会社とのつながりもちゃんと調べて検討しましょう。また銀行を検討する際も、自分で足を運んで各担当者さんに会った方がいいですね。

(T)なるほど。外部の専門家に相談する場合、会計士、弁護士、税理士と、専門領域が違いますが、誰が一番適切なのでしょうか?

(H)専門家の業種で選ぶよりは、ベンチャーのクライアントを多く持っている人がいいと考えます。守秘義務の関係であまりにも具体的なことはアドバイスできないですが、どんなサービスの会社がどんな資金調達をしたかという点はアドバイスできます。専門性よりは、クライアント数、経験値、つまりどれくらいのナレッジをもっているか、また自社のビジネスモデルにどれくらいマッチしたアドバイスをくれるか、ということを重要視してください。

(T)なるほど。そういうイメージは、なかなか持っていませんでした。
気をつけるポイントなどはありますか。

(H)たまに、専門家の得意領域や専門家の利益になる領域に無理矢理もっていかれることもあるので、そこは気をつけてください。そういった意味で、余裕がある人がいいですし、信頼という意味で知り合いからの紹介の方がいいです。
ちなみに、銀行は、税理士の紹介だと借り入れできる率が約5~10倍アップします。紹介する側の信頼にも関わるので税理士も注意して紹介しますし、その税理士に実績があれば借りやすくなります。

(T)そうなのですね。お金回りのことってそれぞれに事情があったりするので、話をするハードルが高く、なかなか知見がたまらないのです。

(H) 経営者仲間、専門家、WEB、VCなどは、情報を出してくれるのでそういったところと日常的に関わっておくことは必ずプラスになります。
税理士に経営の相談がすべてできるようになるといいですよね。ワンストップでお金のこと、経営のことをすべて解決できる機会をどれくらい持てるか、が重要だと私たちは考えています。経営者が欲しい情報を周りがスムーズに情報を提供できるようになれば、情報不足によるロスがなくなりますからよね。
また、銀行の借り入れ実績をつくることと同様に、IT系スタートアップなら、新しいサービスには必ず触れておくことをお勧めしています。ですからマネーフォワードやboardさんなど、私もクライアントに紹介していますよ。会計周りの業務が楽になる上に、新しいサービスをユーザーとして実感できるいい機会ですからね。

(T)日頃から情報源と接しておく、新しいサービスに触れながら自分の事業目的をより明確にしておくこと大切ですね。ありがとうございます。

Seven Rich会計事務所・(株)Seven Rich Accounting
代表取締役社長・所長 服部 峻介(公認会計士・税理士・行政書士)

北海道大学経済学部卒。有限責任監査法人トーマツ入社後、上場企業の監査・内部統制、IPO支援、株価算定、M&A、不正調査などの経験を経て、平成23年にSeven Rich会計事務所を開業。以来、会社設立から会計税務、総務、ファイナンス、IPOコンサルなど幅広い支援を累計160社以上に実施しており、会計事務所としてトップクラスのスタートアップ企業の支援数を誇る。
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