課題
- コロナ禍への対応と固定費削減のため、リモートワークを前提とした体制を作りたかった
- コストを必要最小限に抑えながら、事業のフェーズに応じてシステムを柔軟に変更・拡張できるようにしたかった
- 今後、少子高齢化による労働力不足が進むことを見据え、一人ひとりの生産性を最大化できる体制を作りたかった
対策
- 月額制のクラウドサービスを活用することで、固定費を抑えつつ、リモートワークにも対応する
- 1つの総合的なサービスに依存するのではなく、連携機能のある専門サービスを組み合わせることで、柔軟に変更・拡張できるようにする
- 従業員一人ひとりがITツールを”武器”として駆使し、生産性を高める
効果
- boardはITが得意ではない人でも使いやすく、すぐに慣れて業務を任せることができた
- 顧客ごと・案件ごとに個別の設定ができるので、煩雑な請求業務を効率化でき、顧客が急速に増えても以前の事務処理のスピードを維持できた
- 売上と支払いがどのくらいあり、利益がどれだけ残るのかがパッと分かるので、事業を運営していく上でとても良い資料になっている
法律事務所LEACTは、企業法務に特化した法律事務所です。
所属する5名の弁護士すべてが企業経営や組織内弁護士(インハウスロイヤー)の実務経験を持ち、実務に即したアドバイスをクライアントに提供するだけでなく、法務部門の採用・マネジメントなどの組織課題の解決にも取り組んでいます。
2022年1月の設立時からITツールを駆使した運営体制を構築され、法律事務所の煩雑な請求業務の効率化のために、当初よりboardを導入していただいています。
「以前からboardに興味があり、独立したときにはぜひ使ってみたいと思っていた」という、代表弁護士の酒井貴徳さんにお話を伺いました。
ミニマムな運営体制で、変化に柔軟に対応する
board導入の背景を教えてください
事務所の設立時から、求められる売上やパフォーマンスに対して必要最小限のミニマムな組織を作りたいと思っていました。
弊所は設立が2022年1月です。まさにコロナ禍のまっただ中でしたので、当然ながらリモートワークを前提に考えていました。また、自分のクライアントを持って独立したわけではなく、ゼロからのスタートでしたので、なるべく固定費をかけずミニマムに運営できるようにしたいと思っていました。
業務で使うツールもfreee会計・Slack・Notionなど、クラウドでどこからでも使うことができ、かつ月額制で固定費が抑えられるものを揃えていきました。
boardについては、実は機能よりも「私自身が以前から使ってみたかったから」という方が大きいですね。
「以前から使ってみたかった」とのことですが、どのようなきっかけでboardを知っていただいたのでしょうか?
前職でプロダクトマネージャーを務めていたときにboardのことを知って、「興味深いプロダクトだな」と思っていたんです。
当時はリーガルテックのスタートアップ企業に所属しており、私はドメインエキスパート(契約分野の専門家)としてプロダクト開発に携わっていました。法律事務所からの転職だったので、開発業務に携わるのは初めての経験でしたが、学べば学ぶほどその奥深さと、用いる言語の違いから生じる難しさを実感していました。
「どうすれば良いプロダクトを作れて、継続的に売上を伸ばしていけるのだろう」と、他社の製品を研究していたときにboardのことを知りました。
派手に広告やマーケティングを行っているわけでもなく、ゴリゴリの営業部隊がいるわけでもない。開発ブログを読んでも、顧客におもねるわけでも過度にアジャイルを唱えるわけでもない。なのに、ずっと売れ続けている。「いったい他のプロダクトと何が違うのか」と興味が湧いたんです。
最近はPLG(Product Led Growth)*の概念も広まってきましたが、boardのことを知り、「やはり、お客さんが自ら買いたくなるのがプロダクト開発の本質だ」と感じました。
当時の会社ではboardを導入していなかったので触ることができなかったのですが、自分でツールを選べる機会が来たらぜひ使ってみようと思っていました。
* PLG(Product Led Growth):営業やマーケティングの力によって売るのではなく、製品が直接ユーザーに価値を伝えて購入を促す仕組みのこと。米国のベンチャーキャピタルが2016年に提唱し、日本では2021年発売の書籍がきっかけで広まった。
士業の煩雑な「請求業務」を効率化
boardを実際に触ってみて、印象はいかがでしたか?
見積もりや請求など「バックオフィス業務をちゃんと理解した人が作っているんだな」と感じました。
たとえば、メニューの並び方一つ見ても、実際の業務で「そう、そこだよね」という場所に、必要なものがちゃんと置いてある。だから、ヘルプページをほとんど見なくても使えます。
「使う側と作る側の考えがズレている」とあちこちにヘルプマークを付けたり、操作の“ツアー”を入れたりして、画面がどんどん複雑になってしまうんですよね。その点でboardは、使い手が頭の中で考えていることとシステムの間にギャップがなくて、しっくり来る感じがしました。
boardを導入してどんな効果がありましたか?
手間がかかる請求業務が、かなり効率化できていると思います。
私の事務所の場合、請求内容としては、毎月定額の顧問料とタイムチャージ、プロジェクトベースでの一括払いが入り混じっています。毎月末日までの稼働時間を翌月第一営業日で締めた上で、それを案件ごとに集計してクライアントごとの請求書に落とし込まなければならず、かなり煩雑です。
boardなら案件を立てる際に、個別に単価や請求方法などを設定して書類を作っておけるので、請求の際には時間数を入れるだけで正確な請求書を作れます。
取引先が増えてきたので、今はアシスタントの方に請求業務をお願いしています。そこまでITが得意でない方でもすぐにboardの操作に慣れて、問題なくお任せできるようになりました。
クライアント数は創業からの1年でゼロ→20社以上に増えましたが、今でも変わらず「毎月第1営業日の午前でタイムシートを締めて、その日の午後には請求書を送れる」という状態を維持できています。
boardと弁護士のビジネスモデルとの相性はどうでしょうか?
非常にフィットすると思います。弁護士業務は案件ごとに単価が異なり、しかも「月額の顧問料」「タイムチャージ」「スポット対応」「着手金・成功報酬」などが織り混ざるので、請求に苦労されている方は多いのではないかと思います。弁護士のみならず、士業全般のビジネスモデルと相性が良いと思いますね。
また、シンプルなフローで請求書を作れるだけでなく、“売上見込”や“案件ごとの原価”も可視化できるので、経営分析としても使えます。私のような「事業を立ち上げたばかりの経営者」や個人事業主にもお勧めだと思います。
ITを武器に、専門家の力も借りて市場で戦う
事務所を立ち上げた時のシステムづくりについて教えてください。請求書の作成はクラウド会計ソフトやスプレッドシートでも行えますが、boardのような専門ツールを使う意味はどのようなところにありますか?
どちらが正解というものではないと思いますが、私の場合は将来の“拡張性”を重視しています。
弊所ではfreee会計も使っており、そちらでも請求書の発行はできます。「費用を1円でも抑えたい」という場合には、ツールをなるべくまとめるのもありだと思います。
ただ、「何か1つのツールにまとめる」ということは、将来状況が変わったときのスイッチングコストが大きくなるということでもあります。私は前職のスタートアップで「古くて大きなシステムをリプレイスさせる側」だったので、とても苦労した経験があります。また、餅は餅屋で、狭い課題に集中して深掘りするようなプロダクトのほうが痒いところに手が届いたり、フィードバックに対する改善のサイクルが早い傾向があるように感じます。
今はツール同士で連携できるものも多いので、それぞれの業務に最適なものを組み合わせて使う方が、事業の変化に対応して拡張しやすいのではないかと思うんです。もちろん、管理コストが増えるので無駄なツールは入れたくないですし、専門ツールの方がコストは若干上がりますが、拡張性と天秤にかけたときにメリットが大きいと考えました。
創業時のコストを抑えるという観点では、ITツールの費用を削りたくなるように思うのですが、そこはどう捉えていらっしゃいますか?
これも考え方次第ですが、私はITツールは単なるコストではなく、“競争力の源”だと思っています。
少子高齢化で採用難が進む中では、資本やブランド力のある大きな事務所の方が絶対的に有利です。今から立ち上げる小さな事務所が戦うためには、一人ひとりの生産性を最大化するしかない。そのための“武器”の1つがITだと私は思っています。
もう1点、コストの観点で伺いたいのですが、LEACTさんはバックオフィス業務を専門のBPOサービスに外注されていると聞きました。こちらはどのような意味合いがありますか?
バックオフィス業務はboardの事例にも登場している「Brownies Works」というサービスにお願いしています。
「外注ではなく自分で雇う」という選択肢ももちろんありますが、どれだけ優秀な人を雇えたとしても、その人の個人的な経験が自分たちが創りたい組織にどこまでフィットするかは分かりません。また、その人の判断の是非を専門家でない私が評価するのも難しい。
その点、Brownies Worksはいくつもの企業のバックオフィスを支援しているノウハウの蓄積の中から、「このケースではこうした方がいい」というアドバイスをしてくれます。ですから、私自身としては「単純にバックオフィス業務を外注している」というより、「評価や育成、システム選定にかかるコストを外部に委託している」という感覚を持っています。
酒井先生は弁護士でありながら、業務の設計やITツールに対する造詣が深くていらっしゃいますが、どのように身に付けられたのでしょう?
業務の設計ができるというより、さまざまな企業の課題を伺う経験を通じて「そういう目線や発想を持てるようになった」という感じですね。
たとえば、私は経理さんのように会計業務ができるわけではないし、ツールの連携もエンジニアさんに手伝ってもらっているので、“自分でできる範囲”は決して広くありません。
でも、プロダクトマネージャーをやっていたときにいろいろ勉強して、エンジニアさんのデータベース起点で考える思想や、システム間のデータの受け渡し方など、「リーガルの世界とは違うこんな発想があるんだ」ということを知りました。
個人的には、ツールをあれこれいじって研究するのは好きなんです。ただ、専門家ではないのでできることは限られていますし、自分の時間が無限にあるわけでもありません。ですから、自分で何でもやるというのではなく、優先的に解決すべき課題の特定と解決の方向性を考えつつ、専門家の力を借りるべきところは借りて、信頼できる人に任せていくという考え方ですね。
良い仕事が適正に評価されて、楽しく仕事ができる場を作る
boardを活用して、今後どのようなことを実現されたいですか?
弊所で使っている汎用ツール、たとえばGoogleやSlack、Notionなどとの連携を強化して、より効率的に業務を行えるようにしていきたいです。基本的な操作がSlack上で完結するシングルUIの考え方をベースにしながら、APIを活用して工数削減とミスのないオペレーションの構築を一歩一歩進めています。新しい組織だからこそ、既存のオペレーションにシステムをあわせるのではなく、システムにあわせてオペレーションを最適化していく、いわゆる“DX”の実現を目指しています。
ただ、いろいろと連携の話をしてきましたが、boardは単体でライトに使えるところも大きなメリットだと感じています。
弁護士事務所として負担の大きい請求書の発行が効率化でき、売上と支払いがどれぐらいあって、利益がどれだけ残るのかがパッと分かる。事業を運営していく上でとても良い資料になっているので、boardについては現時点でも満足していますね。
最後に、今後の事業について、どのような展望をお持ちですか?
私は、大手法律事務所という「完成された大きな組織」と、スタートアップという「成長過程にある組織」を両方経験したので、それを踏まえて「自分だったらこういう組織を作りたい」という思いを持ってやってきました。今日お話しした取り組みも、その中の1つです。
弁護士は、今でも徒弟制や“のれん分け”が残っているような職人気質の世界で、集まっている人たちもどちらかと言えば独立志向の方が多いように思います。他方で、スタートアップは「人が集まったからこそできることをやろう」という世界観を持っています。どちらも格好いいと思いますし、善し悪しはないのですが、私には後者の方が合っているのではないかと思ったんですね。
一般的に、弁護士といえば華やかな職業だと思われるかもしれませんが、実際にはビジネスとしてうまくいっていないケースもよく耳にします。「営業がうまくいかない」「案件対応について相談できる人がいない」といった悩みをお持ちの方もたくさんいます。なりたい職業ランキングでは上位の常連だったはずなのに、今ではすっかり見かけなくなってしまいました。
でも、私自身は弁護士という仕事をとても楽しんでいますし、社会にとって欠かすことのできない役割だと自負しています。だからこそ、弁護士ひとりひとりが、弁護士という仕事を誇りに感じながら、楽しく働けるような仕組みを作りたいと考えています。
私は「特定分野の法律を極める」よりも、「全体を俯瞰しながら、人の個性や強みを活かしたり、仕組みを作ったりしていく中で、みんなが楽しくやっている」ということに喜びを感じるタイプなので、そういった取り組みの中に自分にしかできないことがあるのではないかと思っています。
その意味でも、LEACTは働く人たちが良い仕事をできて、適正に評価されて、そして仕事を楽しめるような場にしていきたいと思っています。