昭和製作所 奥野雄大さんに、board導入の経緯や効果を伺いました。
*新型コロナウイルス感染対策として、当インタビューはオンラインで行いました。
貴社の事業内容について教えてください
1919年から100年以上続く木型製造業のメーカーです。兵庫県神戸市に本社を置いて、従業員13名で営業しています。
木型製造業と言ってもあまり馴染みがないかもしれませんが、たとえば自動車メーカーが車をモデルチェンジするときに、外観をこんな形にしようか、あんな形にしようかと試作してみたり、造船メーカーであれば流線型の形状をどんなふうにしようかと試作してみたり、そういった開発・設計に関わる試作を大手製造メーカーさんから受注して、プロトタイプとして提供するという仕事です。
弊社はその中でも、木材や樹脂材のような軟質材料を使って、鉄やアルミなどの金属で量産する前の段階で製品を作っています。
それから、2014年にはインドネシアにも製造拠点を設立しました。私も立ち上げから赴任して、今年で8年目になります。インドネシア社でも現地のメーカーさんから試作を受注して、製造・販売しています。試作領域は発注から納品までのリードタイムが短いので、日本で作ってから送るのでは時間がかかりすぎることもありますし、設計変更などで修正が入った場合にもすぐ現地で対応できるので、お客様からもインドネシア社の存在は大きいと言っていただいています。
奥野さんは家業を継ぐために別業界から入社したとのことですが、どのような経緯だったのでしょうか
初めは新卒でWebサイトなどのデジタルコンテンツの受託制作会社に入社して、そこで7年間働いていました。その後、弊社の社長でもある父からインドネシアに進出するという話を聞きまして、ちょうど私自身も自分のキャリアについて考えていた時期だったので、現地での立ち上げを任せてほしいと志願したんです。もちろん新規の事業ですし、まったく知らない土地ですから、うまくいく保証はなかったのですが、それでもやってみたいという気持ちがあって入社しました。
IT関連の制作会社から100年以上続く会社に入ってみて、業務のやり方・課題などは変わりましたか
変わりました。やはり製造業という歴史のある業界なので、たとえば「デザイン」に対する考え方1つを取ってもIT業界とはまったく違います。ITの世界は比較的簡単に前の状態に戻せますが、製造業ではそれができないので、一つひとつの決断が非常に重くなります。一度決めたら、そのまま億の単位で生産が進んでしまいますから。その意思決定の重さが全体のスピード感にも影響していて、IT業界にいた頃に比べると少しゆっくりした部分があるなと感じました。
バックオフィスについても、IT企業だと効率化や迅速化を求められる場面が多いと思いますが、こちらはそういう面でも穏やかな雰囲気があると思います。
入社後、すぐに社内のDXに取り組み始めたのでしょうか
私は2014年に入社して、すぐにインドネシアに駐在したのですが、2015年頃にはそういう取り組みを始めていたと思います。
最初の課題は、インドネシアと日本のコミュニケーションでした。当時はメールとLINE通話が主なコミュニケーションツールだったのですが、いろいろと不便に感じることもあったので、チャットに置き換えたいと思ったんです。ちょうどその頃、前職からの友人たちがSlackを使っていると話していたので、これを弊社にも導入しようと。
ただ、当時のSlackはまだ日本語対応が進んでいなくて、ただでさえチャットに馴染みがないのに英語UIのツールに置き換えるということは難しくて、うまくいきませんでした。その後も様々なチャットツールを試していたのですが、2020年に新型コロナの影響が広がってきた頃、急速にチャットが浸透しました。やはり対面で人と会うことが難しくなったり、出社も避けなくてはならなくなったりしたので、そういう状況が後押しになったのだと思います。
バックオフィス系も2019年頃から少しずつ準備を始めていましたが、本格的な検討に入ったのは2020年の初め頃だったと思います。
従来のやり方と大きく変わることで、社内からの反発などはありませんでしたか
なるべく皆が抵抗を感じないように、丁寧な説明を心がけながら進めました。実際、これといった反発はなかったと思います。気をつけたこととしては、まず一番の決裁者である社長の理解を得ることを重視して、その後メンバーにも一つひとつ説明していくようにしました。
先ほどお話ししたように、まずコミュニケーションツールの移行から始まって、バックオフィスの方も変えたいなと思い始めたのが2019年頃でした。その後、2020年に入るぐらいまではいろいろなサービスを調べて、boardの他にも会計ソフトの請求書作成機能などを含めていくつか検討していましたが、いよいよ新型コロナの感染の影響が大きくなってきた頃、社長にシステムの移行を打診しました。
というのも、弊社では当時、会社に据え置きで使う「事務コン」という専用端末で請求書を作っていたのですが、出社を避けなければいけないという状況になって、請求書や発注書の作成をクラウド化するタイミングとして合っていたんです。
ただ、それでもまだ移行の理由としては弱いというか、メリットを伝えきれないと思ったので、ちょうどその頃が弊社の半期にあたっていたこともあって、とりあえず上半期分のデータを全部boardに入力してみたんです。それで何をしたかったのかというと、boardでは請求書を作成していくだけで自動的に集計やグラフがダッシュボードに表示されますから、それを社長に見てもらおうと思いました。すると、社長もそれを見て「ああ、いいね」ということで、無事に決裁が下りました。
実際の導入に際して、どのように社内に展開していきましたか
社内では営業と営業事務のメンバーがメインで使っていますが、彼らに対してもできるだけ丁寧に伝えるようにしました。まずは以前のシステムからそれほど手間が増えるわけではないこと、クラウドだからどこにいても書類を作れるという大まかなイメージを伝えて、顧客登録や案件登録、見積書作成といった最低限の操作については独自のマニュアルを作って、個別に伝えていきました。
ただそれでも、今まで馴染んだ方法からすぐに切り替えるのは難しい場合もあるので、もしどうしても大変だったら、今期の残り分については前のシステムを使っていいよ、本格的な運用は来期からだよ、というふうにバッファーを設けて、安心感を持ってもらいながらスタートできるようにしました。
他のサービスも検討していたとのことですが、最終的にboardに決めた理由は何でしょうか
まずは価格感ですね。5人以上で使っても手頃な価格であること。それから対応している機能も重要ですが、個人的に大きかったのは、サービスの構想やターゲット層が弊社の事業にマッチしていると感じたことです。
boardは元々、システムの受託開発やデザインの会社などでよく使われていると思うのですが、弊社もお客様の依頼に基づいて1点モノの製品を作っているという点で、じつはそういった分野とビジネスモデルが近いんです。ですから、検討段階から弊社の事業との親和性が高いと思っていました。
boardの導入によって、どのような効果・メリット・変化がありましたか
以前に比べて、毎月の売上や翌月の目標などを簡単に確認できるようになりました。おかげで、営業ミーティングをするときも非常に具体的な数字を元に話ができるようになりました。営業の段階から、数字を参照していくイメージです。
私は普段、インドネシアからオンラインでミーティングに参加するのですが、画面共有で同じものを見ながら、今月はどうだった、来月はこうしようという話を遠隔でできるので、とても助かっています。
boardへの要望があればお聞かせください
ほとんどないのですが、唯一挙げるとすれば、製造業では品番管理が必須なので、今の摘要とは別に品番や品名といったものを書類に入力できるようになると嬉しいです。今はそれがないので、摘要を2行分使って1つの製品を入力しています。
もしこれができるようになったら、他の製造業の会社にとっても使うハードルが低くなるのではないかと思います。
boardはどういった会社にお勧めだと思いますか
製造業で言うと、たとえば「少品種・大量生産」のメーカーだったり、数千種類の製品を10個、100個と作るようなメーカーよりも、弊社のような「多品種・1点製造」のメーカーによりフィットするのではないかと思います。先ほども少し話しましたが、木型・金型のメーカーというのはboardが元々想定しているIT系の受託開発の会社などと、営業面においてビジネスモデルが似ているんですね。実際、私の知り合いの会社でも合いそうだなと思ったらお勧めしています。
それから、ちょっと細かい話になってしまいますが、個人的に気に入っている機能で、見積書を作るときに「Excelからペースト」という機能がありますよね。見積もりを作るときはどうしても様々な要素を足したり、掛け合わせたりしながら計算していかなければいけないので、一旦boardから離れてExcelの方でデータを作ることが結構あるんです。「Excelからペースト」を使えばExcelで作ったものをそのまま書類に登録できるので、これもぜひお勧めしたいですね。
御社のDXに関して、今後どのようなことをやっていこうとお考えですか
次に取り組むとしたら、生産工程の管理になるでしょうか。今でも原価管理についてはある程度やっていますが、今後は生産工程全体を見据えていくこともできると思います。ただ、あまり無理に進めるのではなく、あくまでも効果のある範囲を見極めながら検討していくことになると思います。
歴史のある会社ほど長く続けてきた業務の習慣があるので、DXに苦労することが多いと思います。そのような会社に向けて、何かアドバイスをお願いします
初めはうまくいかなくても当然なので、思った通りに移行できなくても落ち込まないで、焦らず、諦めないことが大事だと思います。もし失敗したとしても、どんなに小さくてもいいので得られるメリットを明確にして、根気よく、丁寧に対応していくことですね。あとは、一人ずつ理解者を増やしていくことも大切だと思います。そこにしっかり時間をかけていくことで、少しずつかもしれませんが、結果はついてくると思います。
最後に、貴社の今後の事業の展望をお聞かせください
沢山のお客さんに価値を提供して、社会に貢献できる領域をもっと増やしていきたいと思っています。うちの会社だからできることがまだまだあると思うので、それをこれからも探し続けて、メンバーと一緒に成長しながら、より幸せになっていければと思っています。
インタビュー後記
社内で混乱や反発が起きないよう、非常に丁寧な進め方をされていたのが印象的でした。
歴史の長い会社様ほど、長年行われてきた業務があるため、システム化やクラウド活用にはどうしても苦労される面が多いと思いますが、昭和製作所様はそこに時間をかけて、少しずつ着実に進めていくことで、うまく社内に展開できたようです。
利用者それぞれの立場でメリットを体験できるように準備したり、無理に急がず、十分なバッファーを設けながら進めるなど、他の会社様にも参考になる要素が多いお話だったのではないかと思います。