平成18年に新会社法が施行され会社設立が以前より容易になり、終身雇用制度の崩壊、働き方の多様化、ITサービスによるバックオフィス業務の軽減なども追い風となり、起業の裾野はますます広がりを見せています。
そこで起業の基本、事業を長く続けるための心得について、昨今、ママ起業サポートをスタートした税理士、公認会計士、上級心理カウンセラー、行動心理士の浅川弘樹さんに、伺いました。
起業の大まかな流れを教えてください
起業の前に必ずその“きっかけ”があります。
私はこの3年間で、210件の起業サポートをやってきましたが、実は起業したいという想いで起業した人はそのうちの2割程度で、会社が潰れた、環境が変わって起業せざるを得なくなった、転職に得心できず独立することにしたなど、なんらかの環境の変化がきっかけで起業する人が8割です。
起業の“きっかけ”ができたら、ご自身が納得いくまで、直感、感情を司る右脳と論理、現実を捉える左脳を十分キャッチボールさせて起業してください。
そして、起業を決心したら手続きに入ります。起業の形態によって、この手続きは変わります。
まず法人化するか、個人事業主にするか。4〜500万の利益があれば法人のほうが税制上有利という話がありますが、基本的には、事業を拡大するつもりがあれば、法人化をお勧めします。一般的にBtoBの業種は、法人であったほうが信用度の面で契約がとりやすいです。その後、以下を検討し、税理士さん、社労士などの専門家に相談します。
・雇用するか
・店舗または事務所を構えるか
・創業融資を受けたいか
近年出てきた形態に、合同会社(日本版LLC)がありますが、これは実務的に設立コストが安いというメリットがあります。株式会社の場合は約23万円のコストが約10万円程度で設立可能です。また税制の違いは、ほぼありません。株式会社では各社が定款で定める10年以内で役員変更登記をしなければなりませんが、合同会社では、それが必要ありません。こういった背景から、不動産投資のために合同会社を利用するケースも多いです。
合同会社のデメリットは、出資しなければ、合同会社の役員・社員にはなれないことや合同会社が何かを知られていない、ということです。
事業継続が難しい場合の要因にはどういったものがあるのでしょうか
事業継続できない場合のほとんどの要因は、“売上不足”です。
鉛筆をなめるだけでなく、実際のお客様から1円でも多くいただくには、どうするか。既存事業の場合は、業界内でのパイの奪い合いなので差別化を図ること、新規事業の場合は需要創造ができるか、を考えることが重要です。
その点で、ファミリービジネスの後継はマーケットシェアや既存顧客があるので迷わずやったほうがいい、とお伝えしています。
たまに、大手勤務後に起業した方で、大手と同じ機器を揃えようとしている方がいますが、その機器が本当に必要かは、検討してください。
起業後3~5年で継続出来なくなる理由には、創業メンバーの空中分解、拡大の資金繰りがうまくいかない、などがあります。また運がない、時代がついてこないことで続けられないこともあります。
事業継続している社長を見ていると、4年目以降くらいから社長の手で「やらないこと」(実務的なこと等)を明確に決めています。社長業はステージによって、どんどん変わるので、注意しましょう。
事業を続けるため、起業家が気をつけたほうがいい点や対策をおしえてください
以下、気をつける点です。
■リーンスタートアップをする
大振りをしないということです。とくに店舗経営など設備投資がかかる事業の場合、起業前に同じ業界の職務に関わっていたとしても、始める事業形態の入念なマーケット検証をお勧めします。
■勝負どころと撤退ラインを決める
財源を元に撤退ラインを決め、その間に勝負をすることが重要です。たとえば500万の資本金で固定費が50万であれば、10か月が生存期限です。そしてその10ヶ月間で、勝負する所を決める。だらだら経営して、資金がたりなくなってから、勝負をかけていては遅いです。また借入れがあると冷静な判断ができなくなります。
■冷静な助言を仰ぐ
起業する人には、やはり自信があります。市場とのズレがあった時や軌道修正が必要な時にも、その自信のせいで、そのまま突き進んでしまわないように、冷静に仕事を見て、助言してくる人がいるといいですね。継続的に伸びる企業には、暴走の抑止や従業員との橋渡し役など、経営者と同じ目線で話せる人がもう一人以上います。
また、事業継続している所の特徴として
・引越しが多い会社(従業員増加で、違約金を払ってでも引っ越している)
・借り入れは推奨していないが、借り入れしている(返すために踏ん張る。借りるのであれば、政策金融公庫などの無担保無保証の融資がお勧め)ということがあります。
事業は、万を持して始めても、わからない、何が当たるかわからない側面もありますから成功はあとづけです。
・テーマは同じでも、ビジネスモデルにこだわりすぎず、柔軟に変化させる
ことも重要です。
2016年11月に「ママ起業サポ」サービスを立ち上げていらっしゃいます。サービスの概要を教えてください
私は主に税理士の立場から起業支援、顧問をやっているのですが、ママさんの起業支援のニーズに応えてサービスをパッケージ化したのが「ママ起業サポ」です。ママ起業支援では、集客系にフォーカスしたものが多いですが、「ママ起業サポ」では、起業の根幹となる経営と財務にフォーカスしたサービスを提供しており、少人数制のセミナーで会計、帳簿のつけ方、確定申告、起業家専門税理士として「お金のコントロール」という視点で経営の考え方をお伝えしています。
ママ起業の現状や特徴について教えてください
ママ起業は、子育てが一段落し、子供をきっかけに働き方や生き方の考え方が変わり、仕事と生活と子育てを両立させるために、再就職ではなく起業を選ぶ人が多くなってきたことが背景で、昨今増加しています。
特徴は、売上規模、分野がバラエティに富んでいて、仕事量も週末だけ〜毎日と幅広いこと。エステ、ヨガインストラクター、秘書代行など手に職を持っている方の起業やコーチングなども多いです。
ママ起業が通常の起業と比べて難しい点や注意しなければいけない点はありますか
“ママ起業”と起業は、実はあまり変わりません。しかし、一部で起業がブームのようになっていることもあり、準備だけで満足される方もいらっしゃいます。その背景には、生活がかかっていないことがありますが、起業家に負けないためには、絶対に成功するという気持ちを持つことが大切です。また趣味の延長のように、利益獲得を目標とせずギリギリで運営しようとする方もいますが、それを継続するのは簡単ではありません。
長く続けるためにも起業の目的を常に見直してもっと明確化してください。
転職より起業の方が時間を自由に使えるということはありますが、やはりお子さんのことなどで難しい場合も多いので、旦那さんの理解や周りのサポートは必要です。
これから起業しようとしている方に何かメッセージをお願いします
起業する人は、結局、無理せず自然に起業します。
起業するにあたってハードルがあるのであれば、それをクリアーしてください。
起業自体にはリスクは少ないです。
一度きりの人生ですので、起業したいのであれば、直感を信じてするのがいいと思います。ただし、その時には、撤退ラインを決めてくださいね。

税理士、公認会計士、上級心理カウンセラー、行動心理士。 福岡県小倉出身、慶応義塾大学卒。有限責任監査法人トーマツに就職し、その後、起業家専門税理士として独立。単なる税務顧問の立場にとどまらず、積極的に起業家の悩みに応える支援スタイルで、3年で210件を超える起業家(法人企業・個人事業主)をサポートし、顧問先の「10人中9人」が事業を存続させている。6歳(小学生)の男の子の父。