オフィス移転の考え方と価値を最大化する方法〜企業文化とオフィスデザインの関係とは?プランニングが働き方を変える(後編)

ベンチャー企業経営者にとって、オフィス移転は企業規模を大きくさせる際に必要不可欠なイベントであり、オフィス環境は、人材の募集や就労環境、事業運営など経営に大きく関わっている。

そこで、ベンチャーオフィスのブレーン&パートナーとして、数々のスタートアップやベンチャー企業のオフィス移転・内装を手掛ける株式会社ヒトカラメディアの代表高井さんに、オフィス移転時の費用感、気をつけるべきこと、オフィス移転の価値を最大化する方法など、お話を伺いました。

今回は後編です。(前編を読む

 

オフィスをオシャレにするにはどうすればいいでしょうか?

基本的に、オフィス空間の構成要素は床、壁、天井、什器/ファニチャーの4つです。

たとえば、天井にライトをつけて照度を変えて雰囲気を変えたり、壁や天井にアクセントとなる色を使ったり、床材を変更したり、什器/ファニチャーにこだわることなどをすると、かっこいいオフィスにすることは難しくないと思います。ただ、本質的にはその「オシャレなこと」自体に価値があるわけではありません。

内装デザインを考える際には、企業の目的のために、オフィスにどういった機能が必要で、そのためにどのようなオフィス空間の要件定義をするか、それを満たすためにどういったデザインが最適か、そしてそのことで体現できる企業文化・風土はどういうものか、ということが最重要です。

当社は“「働く場」と「働き方」からいきいきとした組織/個人を増やす”をビジョンとしてかかげており、オフィス戦略は事業戦略と深くつながっているととらえています。内装については、設計から手がけることもあれば、プランニング・プロジェクトマネジメントのみで関わらせていただくこともありますが、企業の従業員の方がオフィスでの時間をどのように過ごすのか、事業戦略に基づいた機能を実現するデザイン設計・プランニングをしています。

オシャレにすると、そういう点に気を使っている、ことは伝えられますが、デザインは奥が深く、その裏づけや背景を反映させると、そのオシャレにも深みが増すと思います。

 

デザイン的要素だけでなく、オフィスに持たせる機能は企業文化にもつながるんですね。オフィス空間が変わることで「働き方」が変わった例を教えて下さい。

当社が内装をプロデュースさせていただいたスマホゲームの集客支援事業をやっている会社様の場合、オフィス移転前は、40坪程度で会議室が一室のみ、人数の割にスペースが小さい状況で、席配置などの物理的制約を受け、コミュニケーションが取りづらいという課題をお持ちでした。

話をするにも、席から直接は話しかけづらいため、会話をするために打ち合わせスペースに行かないといけない。ただその打合わせスペースも埋まっている、そのため会話はチャットが主になる、といった状況です。

ところが、70坪強のオフィスに移転されて、社員が集うことができるDIYリビングを設置し、席の配置を斜めにして、メンバー同士の接点を持てる表面積を増やすように工夫をし、さらに打ち合わせスペースや集中できるフォーカススペースなどを作った結果、社内のコミュニケーション量が3倍になり、かつオフラインでの会話が主流になったため業務効率があがったそうです。また毎週そのリビングでゲーム大会が開催されるという社内文化もできあがりました。



マンションの1室から広めのオフィスに移転された例ですが、代表の方が社内のコミュニケーションを大切にしている方で、毎週メンバー全員でランチを食べたいという希望があり、それが社内でできるよう、会議をするためだけには長すぎる、広いテーブルを設置しました。他にゆったりと座れるソファスペースなどもあり、自然体で会話が生まれやすい空間になっています。コミュニケーションを軸としたオフィス空間にすることにより、この会社の魅力が社内外の方々に広がっていっています。



また当社では社内向けには「快適に働ける環境」、社外向けには「ヒトカラメディアのファンとなってくれる方を増やす」をテーマとしており、それを機能として実現するために、エントランスから執務スペースまであえて壁をつくらず開放感を出したり、人が集まれるようフレキシブルな運用ができるように固定して設置するものはあえて設けなかったり。実はオフィスを作るときにこんな風に要件定義をしています。



オフィス設計・構築は、経営者の希望をもとにある意味トップダウンで行われることが圧倒的多数なのですが、そのプロセスにメンバーを巻きこんで、メンバーの想いを組み込ませるというワークショップも最近よく実施しています。

ワークショップでは、その企業が掲げるミッション、ビジョンを体現するためにはどういったアクションが行われる必要があるのか、またそれを実現するにはどのような環境が必要か、理想の働き方やチームのありかた、などをメンバー同士で話し合い、アイデアを出し合うプロセスを経て、コンセプトを導き出し、最終的にそれをオフィス設計で実現するためのアウトプットを僕たちのほうから提案します。

ワークショップを実施するメリットには、経営課題を解決するために何をするか、という課題解決の手法をオフィス設計に落とし込むことができることと、企業様それぞれのビジョン、ミッションの浸透をメンバーに促進できる、ということにあります。

こういったメンバーを巻きこんだワークショップは、投資対象であるオフィス移転の価値を最大化するためにすべての企業にお勧めですが、とくに、オフィス移転を新しい価値観を浸透させる機会にしたいと考えられる企業や、より「自社らしさ」を前面に出したオフィス空間にしたい方、経営課題として社内のコミュニケーション量を増やしたいと感じられている企業様にはお勧めです。

 

内装の予算や退去時の原状回復費用の考え方を教えてください。

原状回復工事については、壁紙の張り替え、タイルカーペットの張り替え、天井の補修については内装に何も手を加えていなくても、退去の際には必ず行うことになりますが、追加で内装工事で建てた壁や造作を撤去する程度であれば坪単価2.5〜5万円程度でできると思います。

海外などである例ですが、天井を抜いて内階段を作って2フロアのオフィスを繋げようとすると、下のフロアの照明をとり、防災設備をとり、天井を抜くなどの大掛かりな工事が必要になります。すると、坪単価10万円以上など、原状回復に多額の費用がかかります。これは極端な例でしたが、基本的にそこにあるものをなくす、ビルの躯体に関わる内容となると原状回復工事は大変です。

またオフィス移転時には、内装工事以外にも電話・ネットワーク系の環境設備、電源設備にも予算は必要です。
その金額を含めて、20〜50坪ほどの小規模オフィスで、壁を作らず、DIYを含めて内装をオシャレにするということであれば、坪単価6万~12万円程度でできるやり方はあります。100坪を越える規模のオフィスでは壁を建てることが一般的でDIYでは仕上げきれないので坪単価15〜30万円程度が目安となります。ただこの費用感は什器のグレード、転用するかしないかなどで大きく変わるのであくまでも目安として捉えてください。

 

初めての移転だと、正直どこから手をつけたらよいかわからないです。どのような進め方が良いのでしょうか。

企業にとって、オフィス移転は頻繁にあることではなくイベンタリーなことで、かつ企業にそのプロがいることは稀なので、結果的になんとか移転はできたのだけど移転費用の妥当性もわからず、しかもやりたいことの30%も実現できなかった、ということがとても多いんです。
しかし、オフィスの移転は今後の固定費に大きく関わりますし、オフィス環境によって働き方は当然変わってきますので、もっと深く考えるべきものです。

まずオフィス移転が、その企業にとってどんな意味があり、どういった意義で行うものなのかを考え、コスト対象なのか、投資対象なのかを考えてみてください。

とりあえず広くしたくて、1年だけ移転先にいる予定なのか、2年以上移転先にいて採用にも活かせるオフィス空間にしたいのか。会社の掲げるミッション・ビジョンをどう体現したいのか、そのためには具体的にどのようなことを移転先のオフィスで実現したいのかを考えながら、予算感、立地、大きさ、を想定し、物件を探し始められると良いと思います。当社では、上記のことを汲み取りながら物件や立地の相場や退去時、入居時の費用や、内装やその構築プロセスについてもアドバイスさせていただいています。

スケジュール感としては、内装工事を行う場合、移転計画立ち上げから移転実施までは最低でも3〜4ヶ月はかかると見込んでください。内訳は、会議室などの造作に3〜4週間、職人さんと部材の手配に2週間と考えるとそれで1ヶ月半かかる、そして計画と物件探し、契約で1ヶ月半とって3〜4ヶ月という計算です。また物件が広いほど、時間は必要ですので、100坪以上の規模の場合、4〜6ヶ月間の準備期間は想定してください。
内装が不要な場合でもオーナー審査や調整にも時間は必要ですので最低でも1ヶ月以上は必要です。

移転の際の“上限予算”が、オフィス移転の話のはじめにくることも多いのですが、今回は何に投資をすべきなのかを決め、その後に何を我慢できるのかという優先順位付けをしていくと、限られた予算の中で最大の価値を作りやすくなります。 
たとえば、多様性を持ったメンバー同士が自由に話すことからクリエイティビティが生まれると考える企業様の場合、コミュニケーションが生まれる場、空間づくり、が投資すべき対象と考えることができます。そしてそれ以外の費用を抑えたとしても、ポイントを押さえたメッセージ性が濃いオフィスになります。

オフィス移転の意義とビジョンやミッション、課題や新しい価値を体現するためにオフィス空間にどんな機能をもたせたいか、ということを考えて実際の場作りに生かすことで、是非、移転の価値を高めてください。

 

株式会社ヒトカラメディア 代表取締役 高井淳一郎 
名古屋工業大学建築・デザイン工学科卒業。東証一部上場企業である株式会社リンクアンドモチベーションのグループ会社にて、オフィス仲介・構築、ビルオーナー向け新規事業開発に携わった後、上場準備中のベンチャー保証会社にスタートアップメンバーとして参画。2013年5月に株式会社ヒトカラメディアを設立し代表取締役に就任。『「働く場」と「働き方」からいきいきとした組織/個人をふやす』をビジョンに掲げ、現在は主にスタートアップ・ベンチャーのブレーン&パートナーとしてオフィス領域をサポートしている。
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