販売管理システムの導入を検討し始めると、さまざまな選択肢があることに気づきます。boardのように、あらかじめ業務の枠組みが定義され、導入後すぐに安定した運用を始めやすいパッケージ型の販売管理システムもあれば、kintoneのように、特定の業務に用途を限定せず、幅広い業務アプリを一から作れるノーコード型のプラットフォームも存在します。
販売管理システムを検討する中で、「自由に作れる仕組みの方が自社の業務に合わせやすいのではないか」と考える人も多いのではないでしょうか。
しかし、この2つは根本的に異なるアプローチのツールです。どちらが優れているということではなく、そもそも前提が違うものなのです。そのため、検討にあたっては「何のためにシステムを導入するのか」という目的をはっきりさせる必要があります。
なお、ひと口に「パッケージ型」と言っても、楽楽販売のように販売管理を目的としたパッケージをベースにしつつ、自社の業務に合わせて作り込む余地が大きいツールもあります。Salesforceなども自由度が高い分、設計や運用の負荷が高くなるという点ではノーコード型に近い性質を持っています。本記事における「パッケージ型」は、個別の設計や作り込みを前提とせず、導入後すぐに使い始められるタイプのソフトウェアを指します。
本記事では、ノーコード型とパッケージ型の違いを整理し、それぞれのメリット・デメリットを明確にした上で、どのような場合にどちらを選ぶべきかを考えていきます。
税理士、業務設計士、リベロ・コンサルティング代表
金融のシステム企画部門、会計事務所、数社のスタートアップのバックオフィスを経て、独立。
既存の業務やシステムの使用方法を徹底的にヒアリングしながら、最適な業務フローとシステムの構成を設計し、業務からシステムまで再構築の実績多数。
業務設計の支援を手がけるリベロ・コンサルティング代表をメインで活動中。
目次
- 何のために導入するのか
- ノーコード型とパッケージ型、何が違う?
- ノーコード型のメリットとデメリット
- パッケージ型のメリットとデメリット
- どちらを選ぶべきか:ケース別の判断基準
- まとめ:まずはパッケージ型で十分かを考える
何のために導入するのか
システム選びで重要なのは、いきなりツールの比較から始めないことです。販売管理システムを検討する際も、最初に考えるべきは「どのツールが良さそうか」ではなく、「自社の販売管理で何が課題になっているのか」ということです。業務改善の進め方については、以前に寄稿した「業務改善、どこから手を付けるべきか」をご覧ください。
一般的に、販売管理システムの導入目的として多いのは、見積もりから請求までの業務を効率化したい、売上や在庫の状況をタイムリーに把握したい、紙やExcelでの管理から脱却したい、部署間での情報共有をスムーズにしたい、といったものです。こうした目的であれば、まずは販売管理業務が滞りなく回る状態を作ることが重要になります。
一方で、既存の業務フローをできるだけ変えずにシステム化したい、自社独自の複雑な業務に合わせて細かくカスタマイズしたい、と考えるケースもあります。この場合は、販売管理を効率化するというよりも、業務そのものに合わせて仕組みを作る発想に近くなります。
これは、どちらが正しいという話ではありません。前者のように、「販売管理業務をスムーズに回したい」という目的であれば、パッケージ型が向いています。一方で、自社独自の複雑な業務に合わせてシステムを構築したいのであれば、自由度が高いノーコード型の方が向いているでしょう。
ノーコード型とパッケージ型、何が違う?
ここからは、ノーコード型とパッケージ型の具体的な違いを整理していきます。全体像をつかみやすくするため、まずは両者の特徴や考え方を表形式でまとめました。
| 観点 | ノーコード型 | パッケージ型 |
|---|---|---|
| 考え方 | 業務に合わせて仕組みを作る | 既存の仕組みを使う |
| 自由度 | 高い | 限定的 |
| 初期構築 | 必要 | 不要(設定中心) |
| 必要なスキル | 業務を整理し、仕組みを考える力 | 日常業務を理解し、設定できる力 |
| 導入から稼働まで | 3〜6ヶ月程度 | 2週間〜1ヶ月程度 |
この表からわかるとおり、両者の本質的な違いは、個別の機能の有無ではなく、考え方そのものにあります。ノーコード型は、自社の業務に合わせてシステムを構築することを前提としています。ここで言う「構築」とは、業務やデータの構造を整理し、それをシステムとして形にすることを指します。一方、パッケージ型は、あらかじめ設計された仕組みを使うことで、業務をスムーズに回すことを重視しています。
この考え方の違いを理解した上で、それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。
まずランニングコストについて、ノーコード型は初期費用や月額費用だけを見ると安く見えることがありますが、実際には業務変更に伴う改修や機能追加が継続的に発生しやすいという特徴があります。初期構築で終わりではなく、運用が続く限り業務変更に応じたメンテナンスや調整が発生し、その負荷は継続的に積み上がっていきます。一方、パッケージ型では機能追加や改善がベンダー側のアップデートとして提供されるため、利用企業側で個別に改修対応を行う場面はほとんどありません。そのため、長期的に見るとパッケージ型の方が運用負荷やコストを見積もりやすい傾向があります。
次に、両者の「考え方の差」をもう少し明確にしておきます。ノーコード型は、業務の制約や例外を前提に、利用者側がそれらをどう表現するか考えながら仕組みを作っていくアプローチです。業務を変えにくい事情がある場合でも、その制約をそのままシステムに持ち込める点が特徴です。一方でパッケージ型は、多くの企業で共通する業務の進め方を前提に、あらかじめ整理された枠組みの中で利用することを想定しています。独自性を表現することよりも、迷いなく、安定して業務を進められることを優先した設計になっていることが特徴です。
ここまで見てきたように、自社の業務にどの程度の独自性があり、それをシステムでどこまで表現したいのかを整理することが重要です。ここからは、こうした違いを踏まえた上で、ノーコード型とパッケージ型それぞれのメリットとデメリットを整理していきます。
ノーコード型のメリットとデメリット
メリット:自由度の高さ
ノーコード型の最大のメリットは、自由に作り込める点です。
独自の入力項目を定義したり、業務フローに合わせて画面構成や入力順を設計したり、チェック機能を組み込んだりといった形で、自社の業務に合わせてシステムを作り込めるのがノーコード型の大きな特徴です。あらかじめ決められた機能に業務を合わせるのではなく、必要な要素を組み合わせながら、業務の変化に応じて構成を見直していくことができます。その結果、既存の業務フローを大きく変えずにシステム化したい場合や、パッケージ型では吸収しきれない細かな業務上の制約に対応したい場合に、柔軟に対応できる余地があります。
業務上の制約が多く、パッケージ型では対応しきれない部分をシステムで補う必要がある場合は、ノーコード型のシステムを選ぶのが適切です。
デメリット:「簡単」という誤解
ノーコード型のデメリットは、自由度の高さゆえに「何をどう作るか」を自分たちで決める範囲が広く、稼働までに時間がかかりやすい点にあります。また、業務やデータの構造を十分に整理しないまま使い続けると、全体像が把握できなくなり、結果的に運用が破綻しやすくなるという問題もあります。
「ノーコード=誰でも簡単に使える」というイメージを持たれがちですが、組織で使う販売管理システムを作る以上、自社の業務やデータの構造を整理し、仕組みとして一貫した形に落とし込む視点が欠かせません。これは高度な専門知識というよりも、Excelで複数の表やデータの関係を正しく整理できる技術に近いものです。
ノーコードであっても、業務やデータの構造を整理せずに組織で使えるわけではありません。複数人が日常的に利用する以上、誰が見ても理解できる形で設計されていることが重要です。
ここまでの内容を踏まえて、ノーコード型のシステムを組織で使う際に、最低限どのような要件が求められるかを表で整理しておきます。ここでは、一般的なアプリ開発ではなく、販売管理のようにデータの正確性や一貫性が求められる業務システムを前提としています。すべてを一人で完璧にこなす必要はありませんが、これらの視点を理解している人の関与は必要不可欠です。
| スキル領域 | 何が求められるか(要点) |
|---|---|
| データ設計 | 顧客・案件・見積・受注・請求などの関係を整理し、マスターと取引データを適切に設計できる |
| 業務設計 | 業務の流れ、承認、例外処理を整理し、システムとして一貫した形に落とし込める |
| 画面・操作設計 | 現場が迷わず使える入力項目や画面構成、導線を考えられる |
| 権限・運用設計 | 役割ごとの閲覧・編集権限を整理し、属人化しない運用を設計できる |
個人利用と組織利用の壁
ノーコード型のシステムは、個人利用であれば「自分しか使わない前提で好きなように作れる」ため、気軽に扱えます。しかし、組織全体で使う販売管理システムとなると話は別です。複数の部署が関わり、データの正確性や一貫性、権限管理まで含めて設計する必要があります。
このレベルになると、重要なのは「簡単に作れること」ではなく、「業務とデータの構造を理解し、それを破綻なくシステムに落とし込めること」です。その意味でも、システム設計の考え方を理解している人材の関与は不可欠です。
これは最近話題になることの多い「AIを使えば簡単にコードを書いたり、アプリを形にしたりできる」といった話ともよく似ています。個人が試しに作るレベルであれば、AIが有効な場面もありますが、組織で継続的に使うシステムでは、やはり設計や構造の理解が欠かせません。ノーコードであっても、AIを使った開発であっても、業務とシステムの関係をどう設計するかという本質は変わらないのです。
見落とされがちな運用負荷と属人化のリスク
ノーコード型は「一度作れば終わり」ではなく、業務の変化に応じて作り替え続けることが前提です。画面や項目、処理の流れを少しずつ追加・修正していく中で、設計の全体像が把握しづらくなり、修正の手間も次第に増えていきます。
その結果、改修の手間や判断が特定の担当者に集中し、属人化やブラックボックス化が進みやすくなります。一つひとつの変更は小さく見えても、積み重なることで運用負荷が大きくなり、当初想定していた以上にコストがかかるケースも少なくありません。
ノーコード型を業務システムとして使う場合は、自由度の高さだけでなく、こうした長期的な運用負荷と属人化のリスクまで含めて検討する必要があります。
パッケージ型のメリットとデメリット
メリット:すぐに使える、継続的に使える
パッケージ型の最大のメリットは、導入後すぐに業務に馴染みやすいこと、また安定して使い続けやすいことです。
販売管理に必要な基本的な項目や画面、業務の流れがあらかじめ整理されているので、利用者が「次に何をすればいいのか」で迷いにくくなっています。見積もりから受注、納品、請求といった一連の流れも、画面の遷移や操作手順として自然につながっており、個々人のやり方に依存しにくい構造になっています。
そのため、導入時に一から設計を考える必要はなく、商品や取引先の登録、項目の設定、帳票の選択といった最低限の準備を行うだけで利用を開始できます。これにより、導入から稼働までの期間も短くでき、数週間から1ヶ月程度で日常業務に組み込めるケースがほとんどです。
また、運用を続ける中で負荷が増えにくいのも利点です。個別の改修や設計判断を社内で行う必要がないため、特定の担当者しかわからないという状況を回避しやすく、属人化のリスクも抑えられます。機能追加や改善はベンダー側のアップデートとして提供されるため、利用企業側は運用に集中できます。
月額料金を中心としたコスト構造もわかりやすく、将来的な運用負荷や追加対応を含めた見通しを立てやすい点も、パッケージ型の大きなメリットです。こうした理由から、社内に専門的な設計人材がいない場合でも、現実的に導入・運用しやすい選択肢と言えるでしょう。
デメリット:自由度の制約
パッケージ型のデメリットは、自由度が限られることです。あらかじめ用意された枠組みの中で運用することになるため、自社独自の複雑な業務フローや、特殊な管理方法をそのまま再現することには向いていません。
ただし、これは必ずしも「柔軟性が低い」ということではありません。販売管理のように多くの企業で共通する業務は、標準的な仕組みで十分に対応できるケースが大半です。業務を整理した結果として、これまで自社の独自性だと思っていた部分が、実は不要だったと気づくことも珍しくありません。
長年続けてきた業務だからといって、必ずしも効率的とは限りません。業務を整理してみると、慣習として続いてきただけで、実は最適とは言えないプロセスが含まれていることもあります。
パッケージ型のシステムは、多くの企業に共通する標準的な工程を元に設計されています。そのため、業務がある程度整理されていれば、パッケージ型のシステムが提供する仕組みで十分に業務が回るケースも少なくありません。
どちらを選ぶべきか:ケース別の判断基準
ここまで見てきたように、ノーコード型とパッケージ型では、それぞれ異なる強みと弱みを持っています。
重要なのは、「どちらが優れているか」と考えることではありません。判断軸になるのは、自社の販売管理業務をどこまで標準化できるか、そしてシステムを継続的に設計・維持できる体制があるかという2点です。
ノーコード型を選ぶべきケース
ノーコード型のシステムが適しているのは、業務の進め方に強い制約があり、パッケージ型の標準的な仕組みでは吸収しきれないケースです。
たとえば、業界の慣習や取引条件の関係で業務フローを変更できず、その制約をシステム側で表現する必要がある場合がこれに該当します。また、独自の入力項目や処理ルールが多く、既存のパッケージでは対応が難しい場合にもノーコード型の自由度の高さが効果を発揮します。
ただし、社内で構築・運用できる体制がない場合は、外部の支援会社に依頼せざるを得ず、その分のコストが継続的に発生する点も含めて検討する必要があります。
パッケージ型を選ぶべきケース
パッケージ型のシステムが適しているのは、販売管理(見積・受注・納品・請求)という多くの企業で共通する業務を、シンプルかつ継続的に運用したい場合です。販売管理の基本フローは、業種が異なっても大きな違いはありません。標準的な業務であれば、パッケージ型にあらかじめ用意された機能で十分に対応できます。
商品や取引先の登録、項目の表示・非表示や帳票フォーマットの選択といった設定を行うだけで利用を開始でき、一から構築や設計を行う必要がないため、短期間で安定した運用に乗せやすい点も特徴です。
また、社内に専門的な設計人材がいなくても導入・運用しやすい点も大きなメリットです。
まとめ:まずはパッケージ型で十分かを考える
ノーコード型とパッケージ型は、機能の有無や新規性で比較すべきものではありません。考えるべきなのは、自社の販売管理業務をどこまで標準化できるか、そしてシステムを継続的に設計・維持していく体制があるかということです。
販売管理という領域に限って言えば、多くの企業にとってはパッケージ型で十分なケースがほとんどです。見積もり、受注、納品、請求といった基本的な業務フローは業種を問わず共通しており、業務を整理することで、特別な仕組みを作らなくても回る企業が少なくありません。
重要なのは、いきなりツールを選ばないことです。まずは、社内で誰がどの情報を扱い、どこで判断しているのかといった業務の流れを整理し、パッケージ型の標準的な機能でも対応できるかを確認する。その上で、どうしても標準的な仕組みでは対応できない場合にのみ、カスタマイズ性が高いツールやノーコード型を検討する。この順番で考えることで、過度な作り込みや属人化を回避し、安定した運用につなげることが可能になります。
販売管理システムの導入を失敗させないための、現実的で再現性の高い進め方として、この判断プロセスをぜひ参考にしてください。