中小企業がクラウド型の会計ソフトを検討する際、まず候補に挙がるのが「freee会計(以下、freee)」と「マネーフォワード クラウド会計(以下、MF)」です。どちらもクラウド型ですが、freeeは独特な構造で、「取引」や「口座」といった独自の概念を理解する必要があります。使い方に慣れるまでには、一定の学習コストがかかるでしょう。一方、MFは従来型の会計ソフトに近く、仕訳ベースでこれまで通り使うことができます。
こうした違いがあるため、boardと連携させる会計ソフトとしてどちらを選ぶべきか悩む場面もあると思います。実際、boardの導入を検討する方からも「会計ソフトを連携させて使う場合、どちらを選ぶべきか」という質問がよく寄せられるそうです。
この記事では、boardとの連携を前提にしながら、「どちらが優れているか」ではなく、「自社の業務や体制に合うのはどちらか」という観点から、見極めのポイントを整理していきます。
税理士、業務設計士。
金融のシステム企画部門、会計事務所、数社のスタートアップのバックオフィスを経て、独立。
既存の業務やシステムの使用方法を徹底的にヒアリングしながら、最適な業務フローとシステムの構成を設計し、業務からシステムまで再構築の実績多数。
業務設計の支援を手がけるリベロ・コンサルティング代表をメインで活動中。
*当記事は寄稿記事です。
boardと会計ソフトの連携
MFとの連携
MFとboardの連携においては、CSVインポートが基本になります。boardから出力した請求データ(売上・支払)を、MFに「仕訳」として取り込むというものです。仕訳登録なので、他の会計ソフトとの連携と大きな差異はありません。
他の会計ソフトとの違いが出るのは、勘定科目・補助科目、部門などの扱いです。多くの会計ソフトはこれらに3〜5桁の「コード」を付与して管理しています。CSVによる仕訳登録の際は名称ではなく、コードを入力して勘定科目などを指定します。これに対して、MFはコードを持たず、「名称」で管理する形式になっています。半角・全角の違いを含めて完全一致させる必要があるので、MF側の登録データとboard側の登録データの名称が一致しているかという点には注意が必要です。
また、MFは仕訳更新系APIを公開していないため、boardからMFへの自動連携機能はありませんが、MFがboardに対して「請求データを取りに来る」という機能は提供されているようです。こちらはMF側が提供している機能で、私やboard関係者の周辺でこの機能を使っている方がいなかったため、詳細を確認できたわけではありませんが、以下のような制限があるようです。
- 収入データのみの対応(支出データは取り込めない)
- 柔軟な設定はできず、固定の仕訳内容になる
boardの会計連携機能は、条件をかなり細かく分類して勘定科目・補助科目、部門などを使い分けることができるので、仕訳設定の柔軟性が求められる場合は、CSV出力で対応することになります。固定の仕訳で対応できるケースは限られるため、CSV出力によるインポートがboardとMFの連携時の基本になると考えるべきでしょう。
freeeとの連携
freeeとboardの連携は、APIを使った自動連携が可能です。このAPIによる自動連携こそが、MFなど他の会計ソフトとの最も大きな違いです。
boardでは、請求情報をfreeeに自動で送信する機能を提供しています。収入側はboardでステータスが「請求済」になったタイミングで、支出側は「請求書受領済」になったタイミングで、それぞれfreeeに連携されます。
いずれもboard→freeeへの連携は瞬時に行われます。請求書の発行を経理が行っていない場合でも、処理のタイムラグがなく、スムーズに会計処理へ移行できます。
なお、boardの案件や請求書の画面では、勘定科目や部門などの会計連携の項目を設定することはできません。すべての処理は、事前に定義された会計連携設定に基づいて行われます。したがって、経理担当の方は、board上での設定内容を事前に把握しておくことが重要です。
*役割分担の考え方についてはこちらの記事をご覧ください。
freee連携の強み
入金・支払の突き合わせをしやすい
freeeの「取引」は発生処理と決済処理がひとかたまりで管理されています。その仕様によって、freee側では「発生したが、決済されていない」ものを未入・未払として簡単に認識できるため、従来の会計ソフトよりも消込処理の手間を大幅に削減することができます。

boardで確定した請求・支払情報は、freeeの「取引」の発生側のデータとして登録されます。freee側では銀行やクレジットカードの明細情報と連携して、一致するものと突き合わせることで決済処理ができ、簡単に消し込みが完了します。また、支出側の発生データを元に振込データを作ることも可能になっています。
boardでも「入金済」「支払済」というステータスで入金・支払の有無を管理する機能はありますが、freeeから「決済が完了したかどうか」のデータを取得することはできません。そのため、決済情報はfreee側で確認し、board側では請求書の発行・受領までを管理するのが一般的です。
タイムリーな連携
freee連携機能では、board側で請求・受領処理(ステータス変更)が完了したタイミングで、即座にfreee側にデータを反映できるため、基本的には抜け漏れが発生しません。一方で、一度連携が完了したデータの更新には対応していないため、連携完了後にboard側のデータを修正した場合は、freee側のデータを直接修正する必要があります。
freeeにも請求書作成機能はありますが、boardとの連携もタイムリーに反映されるため、本体の請求書機能とその点では遜色はありません。
また、boardとfreeeは「都度連携」が前提の仕様となっており、月末・月初にまとめて取り込むといった使い方はできません。ステータス変更と同時に即時反映されることを理解した上で運用する必要があります。
どちらを選ぶべきか?
freeeとMF。どちらもboardと連携できる選択肢ではありますが、業務設計の状況や、どのような経理・経営の体制を求めるかによって、どちらが適しているかは変わってきます。
ざっくり言えば、業務の構造を見直し、情報の流れを整えた上でリアルタイムに処理していきたい企業にはfreee、これまで通りの経理処理をベースに、部分的に効率化したい企業にはMFが向いています。
freeeを選ぶべきケース
前述の「freee連携の強み」を活かしたい、そのためにはfreee独自の仕様も学んでいく覚悟があるという場合は、freeeを選んでも後悔はしないでしょう。一般的な会計ソフトを長年使ってきた経理の方ほど最初は戸惑うと思いますが、発生主義や正規の簿記の原則などを体現するには、中小企業にはfreeeの方が向いていると私は考えています。
freeeは会計ソフトというよりも、業務と会計を繋ぐHUBとして機能します。経営管理や管理会計にメリットがあるタイプのソフトであり、MFを含む一般的な会計ソフトでは実現できない導入効果として、「経営の見える化」と「月次決算の早期化」が挙げられます。
経営の見える化
まず、経営者目線でのメリットが大きいのは「経営の見える化」です。boardとの連携も含めて、freeeはさまざまなSaaSとのAPI連携が可能であり、その多くがタイムリーに「取引」を登録できます。これにより、売上や原価、費用が発生したタイミングで更新され、常に最新の状態が保たれます。
ただし、freeeと各種SaaSを連携しさえすれば、後は勝手に処理をしてくれるというわけではありません。全体の業務設計や連携時の処理の定義、設定などを精緻に行うことで、ようやく実現できるものであることは理解しておく必要があります。
月次決算の早期化
次に挙げられるメリットは、「月次決算の早期化」です。たとえば、board側の会計連携機能が正しく設定されていれば、請求書をすべて「発行」するだけで売上の計上処理が完了します。もちろん、freee側でのチェックは必要ですが、営業に「発行したはずの請求書が共有されていない」と催促する必要はなく、請求書を見ながら仕訳を切る必要もありません。
月次決算の早期化において重要なのは、処理スピードではなく、いかに情報をタイムリーに経理に連携させる状態を整えるかです。情報の捕捉が遅れれば、締めも遅れるのです。この観点において、boardとfreeeの連携は大きな効果を発揮します。
freeeの導入効果といえば、「自動処理」や「処理の効率化」が語られることが多いですが、それらを実現するためには、正確でタイムリーな情報連携が必須です。導入を機に業務全体のプロセスを整える覚悟を持てば、経営管理体制は大きく強化されるでしょう。
MFを選ぶべきケース
freeeの良いところばかりを述べてきましたが、逆に言えば、業務プロセス全体を大きく変える覚悟がなければ使いこなせないソフトだとも言えます。私はこれまで、freeeを選んだものの従来の会計ソフトと同じ運用を続けた結果、二重登録や未処理が大量に発生し、混乱を招いた事例を何度も見てきました。
そうした状況に陥るたびに、freeeを批判する税理士や経理の方もいますが、原因はfreeeの仕様ではなく、構造を正しく理解せず、運用を見直さなかった導入企業の側にあると感じています。
では、board連携でMFを選ぶべきケースとはどのような場合でしょうか。
まず、収入や支出の請求書を月末月初にまとめて会計連携する運用で問題がない企業です。請求書の発行が月末締めに限られているなら、月中にリアルタイムで連携する必要はなく、締め後にCSVで一括取り込みをすれば十分対応できます。
次に、会計ソフトを財務や税務のためのツールと位置づけ、管理会計や経営管理の数値は別で管理している企業です。このような考え方は中小企業では決して珍しくありません。とくに社員10名以下などの小規模な企業では、大まかな予実管理やキャッシュフローの把握は会計ソフトがなくてもある程度可能です。そうした体制に課題がなければ、無理に変える必要はないでしょう。
また、月次決算を行わず、年に1回、決算期にまとめて伝票登録をするような体制の企業も、freeeよりMFが適しています。freeeは「取引」の構造に基づいて未収・未払を管理しますが、まとめて入力する運用ではその強みが活かされず、むしろ制限となる可能性があります。
複式簿記は、あらゆるビジネス取引を「仕訳」で柔軟に表現できる仕組みです。freeeでは基本的には「取引」経由でしか処理ができず、仕訳の自由度が制限されます。ビジネスの流れに沿って処理ができるならfreeeの構造は有効ですが、断続的で「点」での入力が中心になる場合は、仕訳入力が可能なMFの方が適しているでしょう。
まとめ
boardと連携する会計ソフトを選ぶ際には、freeeの特徴だけに注目するのではなく、それに見合った経営管理体制を構築できるのかを考えることが重要です。すべての企業にfreeeが向いているわけではありません。
多くの中小企業では、会計処理は税務申告や銀行への決算書提出のために行っているのが実態です。その体制で問題が生じていないのであれば、無理にfreeeを導入する必要はないでしょう。
「boardとAPI連携できるからfreeeを使う」といった単純な話ではありません。私自身は、業務設計と各種API連携を前提にfreeeを使いこなすことで、経営管理体制と業務効率の両方を高められると考えていますが、それは従来の経理の延長線上では実現しません。
「boardは使いたい、だけどfreeeの導入は難しそうだ」という場合でも、boardの会計連携機能を正しく設定すれば、複雑な請求書でもきちんと「仕訳」に変換して、CSV出力することができます。体制が整わない場合は、既存の経理処理にフィットするMFを選ぶのも1つの選択肢です。