今回の記事では、企業の営業や販売を支えるソフトウェアの違いについて解説します。
「売上」という、企業にとって最も重要な部分を管理するツールを正しく選ぶためには、各ツールの特徴や使いどころを理解した上で、自社にとって何が適切かを判断する必要があります。どんなに高機能なものを導入したとしても、要件に合わなければ期待どおりの成果を出すことはできません。
企業の営業活動や販売業務を支えるソフトウェアには、SFA(営業支援システム)、CRM(顧客関係管理)、販売管理ソフトなど、さまざまなものがあります。それぞれ目的や機能が異なり、適切なツールを選ぶことが業務の効率化につながります。
一方で、「SFAとCRMの違いがよくわからない」「販売管理ソフトを導入すべきかどうか迷っている」といった相談をされることも多くあります。とくに、中小企業では1人の担当者が多くの業務を兼任していることが多く、営業支援・顧客管理・販売管理の境界線があいまいになりがちです。
本記事では、まずSFA、CRM、販売管理ソフトの違いを整理し、それぞれの役割や活用シーンを解説します。その後、販売管理ソフトと請求管理ソフトの違いを整理し、それらの機能を備えたboardを含め各ツールの選び方についても考えていきます。
税理士、業務設計士。
金融のシステム企画部門、会計事務所、数社のスタートアップのバックオフィスを経て、独立。
既存の業務やシステムの使用方法を徹底的にヒアリングしながら、最適な業務フローとシステムの構成を設計し、業務からシステムまで再構築の実績多数。
業務設計の支援を手がけるリベロ・コンサルティング代表をメインで活動中。
*当記事は寄稿記事です。
SFA・CRM・販売管理ソフトの基本概念
SFA、CRM、販売管理ソフトは、それぞれ異なる目的を持っていますが、近年ではSFAとCRMの機能が統合されるケースが多く、明確に分けることが難しくなってきています。もともとは、SFAは営業活動の効率化、CRMは顧客関係の管理を目的としていましたが、多くのソフトウェアが両方の機能を兼ね備えるようになり、一体的に運用されることが一般的になっています。ここではあえてSFAとCRMを分けて解説していますが、この点は頭に入れておいてください。
SFA(Sales Force Automation / 営業支援システム)は、営業活動を効率化し、商談の進捗管理や成約率の向上を支援するためのソフトウェアです。商談の進行状況を可視化し、案件ごとの進捗を把握しやすくすることで、営業チームの活動をより効率的に管理できます。また、スケジュールや見積もり、提案書の管理など、営業に関わる業務負担を軽減する機能も備えています。
CRM(Customer Relationship Management / 顧客関係管理)は、顧客との関係を長期的に管理し、最適なアプローチを行うことを目的としたソフトウェアです。顧客の基本情報だけでなく、過去の取引履歴やコミュニケーションの履歴を一元管理し、顧客との関係を深めることができます。とくに、マーケティング施策との連携や、カスタマーサポートにおける対応履歴の管理に活用されます。
販売管理ソフトは、受発注から請求、売上管理までを一元化し、業務の効率を高めることを目的としたソフトウェアです。企業の取引を正確に記録し、見積書や請求書の作成、受発注業務の管理をスムーズに行えるため、取引の流れを整理しやすくなります。
SFA(営業支援システム) | CRM(顧客関係管理) | 販売管理ソフト | |
---|---|---|---|
目的 | 営業活動の効率化・成約率向上 | 顧客との関係管理・マーケティング活用 | 受発注・請求・売上管理 |
主な管理対象 | 商談・営業案件・スケジュール | 顧客情報・取引履歴・マーケティングデータ | 受注・請求・売上・在庫(在庫管理はソフトによる) |
活用シーン | 営業チームの活動を可視化し、成約率を向上させたい場合 | 既存顧客との関係を維持し、データ活用を強化したい場合 | 取引の流れを一元管理し、販売業務を効率化したい場合 |
このように、SFAは営業プロセスの管理に、CRMは顧客との関係構築に、販売管理ソフトは販売業務の流れ全体を効率化するために活用されます。
販売管理ソフトと請求管理ソフトの違い
次は、販売管理ソフトと請求管理ソフトの特徴について見ていきます。販売管理ソフトと請求管理ソフトは、どちらも取引業務を支援するソフトウェアですが、目的とカバー範囲が異なります。
請求管理ソフトは、請求書の発行や入金管理を主な目的としており、売掛金の管理や入金消込などに利用されます。一方、販売管理ソフトは、受注から請求、売上計上までの業務プロセス全体の管理を目的とし、販売活動全体の状況を把握するために利用されます。
たとえば、請求管理ソフトは「決まった取引先に対して毎月請求書を発行し、入金状況を管理する」といった使い方が中心になりますが、販売管理ソフトは「新規の受注を記録し、請求書の作成だけでなく、売上や支払いの流れを一元管理する」といった形で運用されます。
請求管理ソフト | 販売管理ソフト | |
---|---|---|
目的 | 請求書発行・入金管理の効率化 | 受発注・請求・売上の一元管理 |
主な機能 | 請求書作成・入金消込・売掛金管理 | 受発注・請求・売上管理 |
活用シーン | 定期請求や未収リスクの管理 | 取引の流れを整理し、販売業務をスムーズに進める |
このように、販売管理ソフトと請求管理ソフトでは目的が異なり、業務の中でどのプロセスを重視するかによって選択が変わります。
boardはこれらを兼ね備えた役割を持っていると言えますが、一般的な販売管理ソフトとは異なる点もあります。
一般的な販売管理ソフトには、受発注管理や在庫管理、売上・仕入管理まで幅広くカバーするものが多いですが、boardは在庫管理や、これを伴う仕入管理(仕入時に在庫の単価や数量等をシステムに登録するもの)には対応していません。その代わりに、見積もりから請求・入金管理までの流れをスムーズに管理できる点に特徴があります。
たとえば、boardで見積書を作成すると、その情報をもとに請求書を簡単に発行することができます。また、請求データと入金状況を紐付けて管理できるため、売上の把握や入金消込の業務を効率化することができます。一般的な販売管理ソフトが「受発注や在庫の管理を含めた業務全体の管理」を目的とするのに対し、boardは「販売・請求業務のシンプルな管理と効率化」に重点を置いています。
以上のことから、boardは在庫管理を必要としない企業にとって、販売管理業務を効率化するための必要十分な機能を備えていると言えます。
SFA/CRMと販売管理ソフトの使いどころと導入時のポイント
SFA/CRMは、営業の案件管理や顧客データの蓄積、マーケティングとの連携に強みを持っています。営業プロセスを把握し、成約率を向上させることを主な目的としているため、新規顧客開拓を強化したい企業や、営業組織を体系的に管理したい企業に適しています。
私の経験から、SFA/CRMを導入するのに適した規模やタイミングは、以下が目安になると考えています。(あくまでも目安ですので、自社の状況に応じて判断してください)
営業担当者が5人以上になり、進捗管理が複雑になってきた
営業チームが増えると、案件の管理が属人的になりがちです。SFAを導入することで、営業活動の可視化が進み、成約率の向上につながります。
マーケティングを本格的に始め、リード管理が必要になった
新規顧客開拓において、リード(見込み顧客)の獲得・育成を行う場合、CRMとマーケティングオートメーション(MA)を組み合わせることで、顧客対応の質を向上させることができます。
顧客データを蓄積・分析し、継続的なアプローチを強化したい
既存顧客の購買履歴や問い合わせ履歴をデータとして管理し、適切なタイミングでのフォローアップや提案が可能になります。
一方、販売管理ソフトは、商談が成立した後の受注管理、請求書発行、売上・入金管理など、取引を確実に処理することを目的としています。とくに、受発注の件数が多く、取引の進捗を正確に管理したい企業に適しています。
SFA/CRMと販売管理ソフトのどちらを選ぶべきか判断する際に、最も重要な観点は「リード(見込み顧客)」や「商談情報」の管理が必要かどうかです。展示会で獲得した名刺情報や、資料をダウンロードした企業の情報など、その時点では取引を開始していないものの、将来的に取引先になる可能性のあるデータを蓄積・分析するには、SFA/CRMの活用が欠かせません。また、商談の進捗状況を記録し、提案書や見積書の提出を管理し、受注見込金額を算出する際にも、SFA/CRMが有効です。
ただし、SFA/CRMは高額なソフトウェアが多いため、自社の営業・販売の現状を見極めた上で、導入の必要性を慎重に判断することが重要です。
boardの導入に適しているケース
boardは、販売管理ソフトの中でも請求業務の効率化に特化したソフトウェアです。在庫管理には対応していませんが、見積もりから請求・入金処理までの流れをシンプルに管理でき、各種会計ソフトやSFA/CRMとの連携も可能です。
次のようなケースでは、boardを導入することで業務が大幅に効率化されます。
販売管理ソフトを使いたいが、在庫管理までは必要ない
在庫の出入りを厳密に管理する必要がなく、受注や請求業務をスムーズにしたい場合、boardはシンプルで適しています。
営業と経理の間の業務をスムーズに連携させたい
見積書から請求書を簡単に作成し、そのまま売上管理や入金管理へつなげられるため、手作業の負担を減らせます。また、会計ソフトと円滑に連携でき、部門や消費税などの細かい連携にも対応しています。
案件単位での請求業務を効率化したい
案件ごとの請求情報を一元管理できるため、以下のようなケースにも簡単に対応できます。
- 1年契約で、かつ毎月請求する。
- 最初に着手金を請求し、納品時に残額を請求する。
どのツールを選ぶべきか?(比較表)
それぞれのツールの特徴を整理し、どのような要件にどのソフトウェアが適しているか表にまとめました。
SFA/CRM | 販売管理ソフト | board | |
---|---|---|---|
目的 | 営業活動の効率化・顧客管理 | 受発注・請求・売上の一元管理 | 見積・請求・入金管理の効率化 |
管理対象 | 商談・顧客情報・取引履歴 | 受注・請求・売上・在庫 | 見積・請求・売上・入金 |
在庫管理 | ✕ | ○ | ✕ |
仕入管理 | ✕ | ○ | △(在庫管理を必要としない仕入・支払管理は可能) |
活用シーン | 営業チームの活動を把握し、顧客データを活用したい場合 | 取引全体を一元管理し、販売業務を最適化したい場合 | 請求業務を効率化し、書類や売上をシンプルに管理したい場合 |
SFA/CRMは営業活動や顧客管理を強化するためのツールであり、販売管理ソフトは取引全体を管理するツールです。boardは請求業務を中心に管理するため、在庫管理やそれに伴う仕入管理が不要な企業にとっては、シンプルで扱いやすい選択肢と言えます。
まとめ
SFA/CRMと販売管理ソフトは、それぞれ目的が異なるため、自社の業務に適したものを選ぶことが重要です。
SFA/CRMは営業活動の効率化や顧客管理に特化しており、新規顧客の獲得や商談管理、リードの育成などを強化したい企業に適しています。一方、販売管理ソフトは受発注・請求・売上の管理を一元化し、業務の流れを整理したい企業に向いています。
導入を検討する際の目安として、営業担当者が増えて商談管理が煩雑になってきた場合や、マーケティング施策と営業を連携させたい場合はSFA/CRMが有効です。また、取引件数が多く、受発注や請求業務をシンプルに管理したい場合は販売管理ソフトの導入が適しています。
とくに請求業務に課題を抱えている企業にとっては、boardが有力な選択肢になります。boardは見積もりから請求・入金処理までの流れをシンプルに管理でき、営業と経理の連携をスムーズにすることで業務の負担を軽減します。請求業務を効率化し、管理コストを抑えながらスムーズな取引を実現したい企業には最適なソリューションとなるでしょう。
自社の営業・販売業務の現状を把握し、どのようなソフトウェアが必要かを検討することで、業務の効率化と売上の最大化につなげることができます。本記事が、ソフトウェア選定の参考になれば幸いです。