board × freeeの連携については、以前の記事で請求書の発行や消し込みの方法を紹介しました。今回はその上級編として、具体的なケースを挙げながら、それをboard × freee連携でどのように実現するか紹介していきます。
税理士、業務設計士。
金融のシステム企画部門、会計事務所、数社のスタートアップのバックオフィスを経て、独立。
現在の業務やシステムの使用方法を徹底的にヒアリングしながら、最適な業務フローとシステムの構成を設計し、業務からシステムまで再構築の実績多数。
現在はSmartHRグループの一員として、バックオフィス向けの新サービス立ち上げを準備中。
boardのfreee連携の仕様
まずはboardとfreeeの請求書の仕様の違いを見ていきます。boardで作成した請求書もfreeeで作成した請求書も、freee上で「収入取引(売上)」として認識することは同じですが、freeeで作成する請求書は明細行ごとに勘定科目、部門、税区分を個別に指定できます。
一方で、boardでは請求書単位でしかそれらを指定できませんので、1枚の請求書の中で複数部門の売上を計上することができません。boardは請求書単位、freeeは明細単位での指定が可能である、という違いをまずは理解することが重要です。
boardはSFAやCRMではないので、そこまで複雑な請求内容を管理するようには設計されていません。もし毎月かなりの枚数の請求書で明細単位のコントロールが必要な場合は、boardで管理するのは厳しいかもしれません。しかし、月に数件程度の特殊なケースでのみ明細単位で勘定科目等の指定が必要といった状況であれば、ちょっと工夫することで対応が可能です。
以下ではその具体的な方法について、freee側での処理も合わせて解説していきます。
スポット対応などを請求する場合
boardの案件管理の最大の特徴が、1つの案件(見積書・発注書)で毎月請求などの複数枚の請求書を紐付けて管理できることです。たとえば、単価が月額1万円のサービスを12ヶ月契約で提供する場合、見積書・発注書では「単価1万円×12ヶ月=12万円」と記載しますが、毎月の請求書では「単価1万円×1ヶ月=1万円」と記載して発行することになります。
このようなケースに「定期請求」機能で対応できるのがboardの大きな特徴です。多くの請求書作成サービスの定期請求機能は、毎月の請求書をコピーするだけなのに対して、boardは「案件」という概念で定期請求を1つにバンドルすることができます。定額サービスや顧問料など、契約期間も含めて管理できるので、中小企業にとっては非常に使い勝手のいい機能です。
一方で、定額料金に加えてスポット対応など追加の請求が発生した場合はどうすればいいのでしょうか。定期請求機能で作成された請求書に、スポット対応分を追記するという方法も考えられますが、私は2つの理由でその対応はオススメしていません。
1つ目は、せっかく見積書・発注書を作成するタイミングで自動的に毎月の請求書が作られているのに、そこに手作業の編集を加えることによってミスが発生する可能性が生じるからです。ルーティンワークだからこそ、可能な限り人間による作業を排除して業務を組み立てた方がベターです。
2つ目は、freeeに連携した際に、定額料金+スポット料金がひとまとまりで連携されてしまうことです。経営者であれば、毎月定額で入ってくる売上とスポットの売上を区分して管理したいと思うのではないでしょうか。
よって、一見すると手間だと思われるかもしれませんが、現時点での私のオススメの対応は、「スポット対応は都度、別案件を作成する」ということになります。こうすることで、freeeの部門タグや品目タグを、定額料金とスポット料金に案件単位で分けて登録できます。
案件を分けた上で、boardの合算請求機能を使用することで、定額料金とスポット料金を1つの請求書で発行することができます。この機能はboard上で請求書を1つにまとめて発行する機能で、案件は別々のまま、freeeにも別々の取引として連携されますので、合算請求したとしても管理会計上の問題は生じません。
毎月必ず従量課金の料金が生じるような場合は、最初から定期請求の方に従量課金の欄を設けておく場合も多いかもしれませんが、スポット請求が不定期の場合は、ぜひこちらの方法も試してみてください。
一括払いで定額料金などを請求する場合
次は、逆に月額料金の12ヶ月分などを一括で請求する場合の対応です。この場合は、board側での会計データ設定とfreee側での「+更新」機能を使用することにより、一括請求した料金を発生月ごとに簡単に分割することが可能です。どちらも設定の難易度は高くありませんので、一括払いで定額料金を請求するケースが多い方はぜひ挑戦してみてください。
まず、board側の会計データ設定です。この機能では、デフォルトの勘定科目、部門、税区分、品目とは別に、条件に合致した案件に特定の勘定科目などを設定できるようになっています。boardには「案件区分」「会計区分」という2つのカテゴリー分け機能がついているので、一括払いの案件には案件登録時に「一括払い」などの会計区分を設定しておくことで、簡単に別の勘定科目や部門を設定してfreeeに連携することができます。
私のオススメは、この際に「前受金」の勘定科目を設定して連携するという方法です。仕訳としては「(借方)売掛金 120,000/(貸方)前受金 120,000」というかたちでfreeeに取り込まれるため、簿記の知識がある方には少し違和感があるかもしれませんが、この方が後述する「+更新」機能との相性がいいので、まずはこれで進めてみてください。
続いて、freee側の「+更新」の処理です。「+更新」はfreee独自の「取引」という形式に最適化した振替処理を簡単に行える機能です。前述の前受金で言えば、売上計上月に売上高に振り替える必要がありますので、「(借方)前受金 10,000/(貸方)売上高 10,000」という仕訳を切ります。この処理を、計上日を指定して簡単に登録できる機能が「+更新」です。
月額料金などを各月に按分する場合は、「前受/前払入力アプリ」を使って12ヶ月分などを簡単に一括登録する方法も用意されています。「取引」の中で「+更新」処理をすることで、発生、振替、決済の処理の繋がりが可視化できるので、非常に使い勝手のいい機能です。
まとめると、boardで一括払いの請求書を発行する場合は、事前に会計区分に「一括払い」などの区分を作成し、その会計区分の場合は「前受金」の勘定科目で連携されるような会計データ設定をします。
【設定例】下図の設定では、デフォルトでは「売上高」で連携されますが、「会計区分1」に「一括払い」が設定されている場合は「前受金」で連携されます。
上記の設定で連携すると、freeeには以下のように登録されます。
そして、freeeに取引が連携して登録された後、「+更新」もしくは「前受/前払入力アプリ」を使って、前受金が計上月に期間按分される処理をします。
「+更新」は未来の日付に対してはいくらでも登録できるので、36ヶ月分などの会計期間をまたいだ登録も可能です。1回登録すれば途中解約などが発生しない限りは何もする必要がないので、非常に便利です。
なお、この場合の「+更新」処理はあくまでも前受金に対しての振替処理であり、売掛債権の管理にはまったく影響しませんので、ご安心ください。
boardとfreeeの相性の良さ
freeeは入力インターフェースに「仕訳」ではなく「取引」を採用することによって、発生と決済をひとまとめにして管理することを可能にしました。さらには「+更新」機能によって振替処理も簡単にできるようになり、債権債務の管理と会計的な処理を切り離すことを実現しました。
クラウド上で動く会計ソフトはいくつもありますが、この概念を採用しているのはfreeeのみであり、他はすべて仕訳を基本としたこれまでの会計ソフトのやり方を踏襲しています。freeeの取引概念については賛否両論があり、従来の会計ソフトに慣れ親しんだベテランほど使い勝手が良くないと感じることが多いようです。一方で、債権債務管理の実務から見ると、データの整合性が取りやすく二重管理の必要がないため、freeeは使い勝手がいいソフトです。
取引概念で重要なのは、その発生時点で情報を素早く認識すること。発生をきちんと認識しているからこそ、銀行口座の情報を取り込んだ際の消し込み処理が容易になり、かつ、発生主義による正確な記帳が可能になるのです。だからこそ、freeeは請求書発行機能を標準機能として有しており、請求書作成ツールとも積極的に連携しています。
freeeが外部の請求書作成ツールと連携する上で重要なポイントがあります。それは、外部システムから取引を登録する際に、複式簿記の概念を意識する必要がないことです。取引登録の際に必要なのは「収入取引」か「支出取引」かの指定のみ。つまり、会計ソフト連携の一番のハードルである「連携時の面倒な仕訳のための設定」が不要になっているのです。
boardのfreeeとのAPI連携は、「boardで請求書を発行すれば即座にfreeeに収入取引が作成される」仕様となっており、外部システムでありながらfreee内で請求書を発行するのと変わらないほどタイムリーに収入取引を計上できます。freeeアプリストアができる前からAPI連携をしてきたboardは、freeeと連携する請求書作成ツールの中でも最も相性の良いツールだと言えるでしょう。
「案件」という概念で定期請求の管理を容易にしたboardと、「取引」という概念で発生と決済をひとまとまりで管理できるようにしたfreee。従来のツールでちょっと足りないと思っていた機能を実現したこの2つのツールの相性は抜群です。高価なCRMや消し込みサービスを使うことができない中小企業にとって、この2つを組み合わせるだけで実現できる案件管理と債権管理は非常に魅力的です。
すべての業種業態で活用できるわけではありませんが、ちょっと工夫することで、定期請求とスポット請求の対応や、一括払いの期間按分なども簡単に対応できるboardとfreeeの組み合わせをぜひ活用してみてください。