freee連携:前受金処理の最適化

board×freeeの連携については、「freee連携機能で入金管理をスムーズにする」「freee連携上級編」の2本の記事で考え方や活用方法について紹介してきました。今回は、その中でもとくに質問が多い「前受金処理」について紹介していきます。

 

執筆者:武内 俊介
税理士、業務設計士。
金融のシステム企画部門、会計事務所、数社のスタートアップのバックオフィスを経て、独立。
既存の業務やシステムの使用方法を徹底的にヒアリングしながら、最適な業務フローとシステムの構成を設計し、業務からシステムまで再構築の実績多数。
現在はバックオフィス向けの業務プロセスの構築と進捗管理ができるツールを開発する株式会社Backyard 代表をメインで活動中。

 

freeeにおける前受金処理の最適解

月額課金のプロダクトやサービスにおいて、複数月分を一括で請求することは資金繰りとして非常に重要な施策ですが、経理の観点から見ると1枚の請求書の中に数ヶ月分の売上が含まれているため、適切な計上月への振り分けや前受金の残高管理などの手間が発生します。

このときに使用する勘定科目が「前受金」です。簿記の教科書などでは「商品やサービスを提供する前に代金の一部、またはすべてを先に受け取った場合に用いる勘定科目」と説明されており、月額利用料の1年分を一括で受け取った場合は一旦前受金で計上し、毎月の利用料分を売上に振り替えていく処理を行います。

(仕訳1)年間利用料の計上と振替

①月額1万円の利用料を12ヶ月分一括で受け取った。

現預金 120,000円 前受金 120,000円

②当月の利用料(1ヶ月分)を売上に振り替えた。

前受金 10,000円 売上高 10,000円

 

では、年間一括の請求書を発行した場合はどのような処理になるでしょうか。利用開始月の月初に請求書を発行し、その月末に入金された場合は以下のような仕訳になります。

(仕訳2)年間利用料の請求、入金、振替

①月額1万円の利用料の12ヶ月分を一括で請求した。

売掛金 120,000円 売上高 120,000円

②請求金額が入金された。

現預金 120,000円 売掛金 120,000円

③翌月以降の利用料を前受金に振り替えた。

売上高 110,000円 前受金 110,000円

この処理によって、利用開始月の月末には売掛金が消し込まれ、売上高10,000円と前受金110,000円が計上されている状態になります。そして前受金は毎月10,000円ずつ売上に振り替えられていきます。

 

前受金という勘定科目が「先に受け取った代金」を表現するためのものであり、教科書的には上記の処理が正しいのですが、クラウド会計+請求書発行システムの連携によって計上する場合、私は以下の処理をオススメしています。

(仕訳3)年間利用料の請求、入金、振替

①月額1万円の利用料の12ヶ月分を一括で請求した。

売掛金 120,000円 前受金 120,000円

②請求金額が入金された。

現預金 120,000円 売掛金 120,000円

③1ヶ月分の利用料を売上に振り替えた。

前受金 10,000円 売上高 10,000円

「入金される前に前受金で計上するのはおかしい」とか、「売掛金の相手科目は前受金にはならない」という意見もあるかと思いますが、私としては「利用開始月の月末で売掛金が消し込まれ、売上高10,000円と前受金110,000円が計上されている状態は同じなので、何も問題はない」と考えています。

とくにサブスクリプションモデルにおける利用料の一括請求は日常的に発生し、かつ毎月売上への振替処理が必要です。「請求書発行後に代金を受け取る」という処理手順になるケースが大半であり、前受金は本来代金を受け取った際に計上するという原理原則を理解した上で、請求書を発行すれば自動的に仕訳が計上されるというメリットを最大限に活かしつつ、わかりやすい(計算しやすい)処理プロセスを構築するためには、仕訳3の方が適していると私は考えています。

board×freeeの連携の場合の処理

ここまでの内容を理解していただいた上で、board×freeeにおける設定と処理は以下の通りです。

boardの会計データ設定では、マッピング条件を指定することで会計ソフトに連携する勘定科目をケースに応じて切り替えることができます。デフォルトは「売上高」で連携される設定のままで、たとえば会計区分が「一括払い」の場合は「前受金」で連携するということが可能です。

 

なお、boardには案件区分と会計区分という2つの区分があり、案件区分は部門やカテゴリー用、会計区分は会計処理に関する区分というかたちで使い分けるのがオススメです。会計データ設定では勘定科目だけでなく、税区分や部門も設定することができます。

このような会計データ設定が完了すれば、一括払いで請求した場合のみfreeeへの相手科目は「前受金」で連携されるようになります。board×freee連携の良さは、請求書発行後、即座にfreeeに取引が計上されることにあります。仕訳ではなく取引で連携されるため、そのままfreee側で債権管理(入金管理)を行うことができます。

続いて、freee側の設定です。まず、発行した請求書はfreee上で通常どおり消し込みを行います。一方で、相手科目である「前受金」ですが、freeeでは経過勘定科目などの振替処理に特化した「+更新」という機能があり、こちらを使って振替処理をしていきます。ただ、1年分の利用料を毎月売上に振り替えるためには、12回同じ処理ような処理をしなければいけません。この面倒を解消するために「前受前払アプリ」が提供されています。

前受前払アプリは、按分期間と開始月を指定すれば期間に応じて自動的に「+更新」処理を行ってくれる優れものです。board→freeeに連携された「前受金」の取引を検索し、処理を実行するだけで一発で振替処理は完了です。なお、freeeでは「+更新」処理を行うことで「どこからこの売上は振り替えられたのか」ということが明確になりますので、振替伝票ではなくぜひ「+更新」を活用しましょう。

 

board、freeeはともに非常に細かい設定ができる優れたツールですが、逆に設定項目が多くヘルプページを見ても用途や意図がわからないケースも多いかと思います。とくにこの前受金処理の場合は、board、freeeの双方で適切な設定と処理を行う必要がありますので、しっかりと理解することが重要です。

一見すると複雑に見えるかもしれませんが、ヘルプページにも各機能はわかりやすく解説されていますので、1つずつ丁寧に設定してみてください。

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